153  俺が優勝だぜ!

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153  俺が優勝だぜ!

「あいつ、えげつねえな。あの若いの大丈夫かな?」 俺は後方に飛んで行く変なやつの無事を祈った。こんなことで死者を出したくないからな。いやしかしトラップが執拗だ。こりゃあいつひとりの仕業じゃねえな。かなりの協力者がいるとみて間違いがない。っていうことはこの先そいつらの妨害もあるってことか。 「うわっ?」 いきなり地面がめくれ上がった。地底から何かあらわれたのだ。こいつはトラップ?いいやそんなもんじゃない! 「あら、失礼。人がいるって気がつかなかったわ」 マミじゃねえか!あいつ、落とし穴に落ちたと思ったんだが。 「そこの仮面のお兄さん、あんた怪我したくなかったらここで止まりなさいな」 「…」 「無言か。いいわ。あんたちょっと邪魔になりそうな気がするからここで休んでてね」 マミは魔導波で俺を気絶させようとした。まあ俺には効かないけど。 「ちょ、っと?なに、あなた。まるで…」 俺は素早い蹴りをマミの顔面めがけ放った。まあかわされるけどな。 「ふうん、本気ってわけね。いいわ、いらっしゃい」 ふっふっふ、もうこっちのもんだぜ。今の蹴りを放つと同時に小さなガスボンベを放ったんだ。そいつは催眠ガス。俺の仮面はガスマスクになってんだ。そのガスを吸い込んだらおねんねだぜ。マミはこいつを知らないからな。 「なにか放ってよこしたけど、こんなもんじゃ…あれ?…あー…」 お休みな、マミ。風邪ひくなよ。すぐ救援が来るからな。さあ、舞美のやつ、お仕置きだぜ! 「ちょ、あの人マミさん倒した?な、何もんよ、あいつ」 あたしはかつてこんなに恐ろしいと感じたことは一度もなかった。あのマミさんが倒された。もうそれだけで恐怖だ。そしてそれはものすごい勢いで追いかけてくる! 「ぎゃあああああ、こわいっ!」 恐怖で感覚がマヒした。自分が仕掛けたトラップを見落とした。見事に宙づりになってしまった。 「ひいいいいいっ」 「あーっはっはっは!いいざまだな」 「あ、あんた兄さん?」 「おう、これで俺が優勝だぜ」 「なに言ってるのっ!このバカ兄貴」 「なんとでも言え!あーっはっはっはっは」 「ちきしょーっ」 あたしは片足をロープに吊り上げられてしまっていた。スカートだからヤバい。パンツ見えちゃう! 「いい景色だぞー。ちゃんとお行儀しないとへそまで見えちゃうからなー」 走りながら兄はそう言って去って行った。 「死ねーーーーっ!」 何だか涙が出てきた。なにがしたかったんだ、バカ兄貴。 「姫、ご無事で?」 「あ、ビーツロッドさん、ロープ切って!」 「お任せを」 ロープが切られ、あたしは地上に飛び降りた。うまく降りたんでパンツは見られなかった。 「残念です、姫。われわれが止めようとしたんですが、剣も魔導もすべてかわされてしまったのです。いったい何者なんでしょうか?」 「しかたないわね。あんたたちがかなうあいてじゃないわ。あいつはあたしの兄貴。剣は達人、魔法は効かないわ。魔法は使えないけどね」 「えーっと…?」 俺はゴールに飛び込んだ。見事優勝だ。ああ、超うれしい。 「おめでとうございます、仮面の人」 「ああ、ありがとう」 大会役員の子たちが駆け寄ってくる。大会参加者も見えるがみんな負傷していて、看護魔導師の世話になっている。あとで舞美にきっちり説教してやんねえとな! 「お名前をお聞かせくださいませんか?」 「あ、ああ、俺はアクテウスって言うんだ」 「そうですか。ではアクテウスさま、優勝トロフィーを、という前に、ちょっと確認したいことがあるんですけど?」 「な、なんだよ」 「あなた魔導反応が全くないんですけど。むしろ魔素を吸い取っているような」 「そ、そんなことはないんじゃないかな?」 「正直におっしゃっていただけませんか?国王陛下」 「あ?」 どこでバレた?い、いやそんなことは関係ねえ。王さまが優勝しちゃいけねえってルールはないからな。
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