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2 熱源反応
「なにかいます!」
監視スコープを覗いていた佐々木一等陸士が叫んだ。
「前方の小川の岸に熱源反応!」
「人か?」
「わかりません!土砂と倒木に埋まっているようです」
「なんだってんだ、こんなとこで」
「通行人かも知れませんね」
「仕方ねえ、確認してこよう」
「しかし土砂崩れが」
佐々木が心配そうに俺を見た。
「おまえたちはここで待機。俺が行ってくる」
「そんな無茶な!」
「無茶は俺のとりえなんだよ。高校までぼんくらだった俺が、無茶のおかげでエリート自衛官になれたんだぜ」
「この行動はとてもエリートのすることでは」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ。いいか、待機中異変があれば速やかに退避しろ。こいつは命令だ」
「了解しました!お気をつけて」
「んじゃあ、行ってくらあ」
俺はスコップをもって車外に出た。雨と風は恐ろしいほど俺へ叩きつけてくる。何とか増水し始めた小川を渡り切り、その地点にたどり着いた。
「誰かいるか!」
返事はない。気を失っているのかもしれない。とにかく早く救出しなければ。こんなところにぼやぼやしてはいられない。また地震があったのだ。今度のはでかかった。無線のレシーバから森一曹の悲痛な声が聞こえる。
〈幸田三尉!上流で土石流発生!ドローンが確認しました。送れ!〉
〈わかった。いま現状を調査中だ。なるべく急ぐ。お前らは退避用意〉
俺は倒木を持ち上げた。何かいる。息遣いがする。
「誰か!」
返事はない。俺は身をよじって倒木と土砂の隙間に腕を伸ばした。なにか触った。えーと、こいつは…。
「クーン」
「犬かよっ!」
その瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。ああ、やっちまった。土石流だ。こいつはもう助からねえ。大小の岩が俺の身体にぶつかり、引きちぎっていく感覚がした。おととい、休暇で帰っていた実家を出るとき、妹と喧嘩しちまった。謝ってなかったな。しょうがない。犬はどうしたかな?一緒に巻き込まれたのかな。ああ、ついてねえな。くっそー、牛丼食いたかったな。
こうして俺の長い地縛霊生活が始まった。
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