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4 神との出会い
「なにそれ?」
「ムシュフシュといってお前をこちらに呼び寄せたわたしの随獣だよ。本来の姿はドラゴンなのだが、ふだんはこうしてコンパクトになっている」
「犬、なのか?」
「だからドラゴンだって言ってるだろ」
「あ、そう。じゃあなにか?その本来の姿はそのドラゴンっていうやつがだ、俺をこんなところに引っ張り込むためにあんなとこにいて、無理やり俺を地縛霊にしたってわけか」
「質問は三つまでだったはずだぞ」
「追加してくれ」
「だめ」
「ワン」
ムシュフシュという犬の大きさのへんてこりんなヤツが嬉しそうに俺を見て吠えた。犬じゃん。
「じゃあ自己紹介しよう。わたしはマルドゥク。太陽神にして創造主、全宇宙をつかさどる最高神です。よろしくね」
「はあ」
「そしてこっちがわたしの娘でかわいい女神、イシュタル」
自称神は、傍らの背の小さな女の子の頭をなでながら言った。女の子は壮麗な衣をまとっている。なにかふわふわした感じだ。
「よろしくね。つっても馴れ馴れしくしないでよ。殺すからな」
姿かたちからは想像できない乱暴な口をきいた。おまけに目つきはよろしくない子だ。
「はっはっは、こらこら、脅しちゃダメだよ」
「だってパパ、なんかこいつ、ガッとさあインパクトっていうかワイルドな感じしないし、むしろ弱っちい雰囲気ありまくりなんだもん」
「人は味覚じゃないからね」
「見かけよ、パパ」
「そうそれ。とにかく使命を果たすには強いだけじゃだめなんだ」
「ふうん」
使命?なんだそりゃ。俺はそのために地縛霊にされたってのか?
「おいコラ、ちゃんと説明しろよ」
「はいはい待って。まったくもうせっかちだね。だからあんなとこで死んじゃうんだよ」
「それはお前がその犬を」
「きみはね、あそこで死ぬ運命だったんだよ。あのへんなものに乗っていた者たちと一緒にね。だけどきみだけあれから出た。きみは運命をかえちゃったんだ」
「それはその犬が…」
「犬は本当に居たんだ。死にかけていた。きみが土石流に巻き込まれる寸前、ムシュフシュが乗り移った。なんでかわからないけど、きっときみを気に入ったんだろう。霊獣がなつくなんて神以外にありえないことだが、それがきみを選んだ理由のひとつでもある」
ムシュフシュは嬉しそうにシッポを振っている。ぜったい犬だよこいつ。
「さっきから使命だとか選ばれた理由とか言ってるが、俺に何させようって魂胆なんだよ」
「いきなり核心なのね。これからわたしのワイフとか兄弟とか親戚の話しなんかしようと思ったのに」
「いらんわ!」
「パパ、なんか生意気よ。こんなやつ殺しちゃってまた新しいの選びましょうよ」
「そうはいかないよ。なんせこんな魂はめったにいないんだからね。何者にも支配されない強い魂は」
「俺に選択肢はないようだな」
「選択肢?それは無限にある。これからきみが転生する世界でね。でもそれはあくまできみの使命を果たすためだよ」
「最終が決まってんなら選択肢って言わねえぞ」
「人間だって生まれてそして行きつくところ、それは死だ。ちがうかい?」
「屁理屈じゃあかなわねえってことだな…くそ。じゃあその使命ってのを聞かせてくれよ」
神と名乗る男は娘の頭に手を置いてニコニコと笑って言った。
「きみはきみの言う異世界に転生し、そこで生き、その世界を滅ぼす。以上」
「おい待てっ!」
「サポートはイシュタルがするけど、怒らせないでくれよ。一応、愛と戦の女神となってるけど、気が短いのはおそらくきみ以上かもしれないからね」
「そんなやつを何で…」
「じゃあ元気でね。また会おう」
「おいコラ待てっ!」
実体がないからつかまえられない。そばでイシュタルという女神が笑ってみてやがる。よくみるとまだ子供みたいだ。なんでこんなのが女神?
「じゃあいいわね。首尾よく世界を滅ぼしたら、あんたは神の仲間よ。うまくやんなさい」
「いやどうやってそんなこと…」
「うっさい!つべこべ言わないでさっさと行けっ!」
「どこへ!」
「決まってるでしょ!アヴァロンよ。あんたのいうところの、異世界よ」
「いやーっ」
「ムシュフシュ、連れてけ」
「ワン」
俺をくわえやがった。やっぱ犬じゃねえか!
俺は光の明滅するトンネルに放り込まれた。それは時間をさかのぼるような感覚だった。えらく長いトンネル…。俺はやがて眠くなった。
目を覚ましたのはだだっ広い、部屋の真ん中だった。
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