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1 災害救助
あれはいつだったかなー…。あ、そうそう、2025年8月、未曽有の超大型の台風が接近してきていた。すぐさま俺たち陸上自衛隊第十一普通科連隊に災害派遣命令が出た。演習中だった俺たちはすぐに災害派遣現場に急行したが、途中で被災者と思われる熱源を発見したんだ。だがすでにそこは、異世界への入り口だったとは、さすがの俺も気がつかなかった…。
風と雨はますます強くなってきた。
台風の勢力圏内に入ったのだろう。本隊から気象情報が頻繁に送られてくる。俺たちの乗る96式装輪装甲車はどんな気象条件でも行動可能だ。十二人の俺たち小隊は、師団本部からの無線指示で演習場から山あいの小村に向け進路コースを変えた。森一等陸曹が最速コースをはじき出してくれる。
俺は幸田良樹。陸上自衛隊普通科連隊所属の三等陸尉で、この優秀なやつらの小隊長をやっている。
2025年8月、日本列島は未曽有の巨大台風に襲われた。これまで見たことのない規模のそれは、列島を縦断する気配を見せ、沖縄・奄美、九州を北上しながら北海道を目指した。上陸が想定されたその時点で、災害救助支援の要請が都道府県知事たちから相次いで発せられた。
俺たちの小隊は、米軍との合同実弾演習のため重火器を持った戦車や自走砲車両とともに総合演習場に向かっていたところだった。無線で指令を受け、急遽、護衛任務をしていた俺たちの車両だけが車列から離れていく。そりゃそうだ。災害派遣に重装の99式自走りゅう弾砲なんかつれていけないからな。
「森一曹、到着までどれくらいだ?」
「あと三十分ほどです」
「ちきしょう、雨脚が強くなってきやがったな」
「土砂崩れが多方面で起きているようです」
「俺たちのところも、そううかうかしてられないってわけだ」
「本隊の合流までもう少しです」
「後続は?」
「重機をともなった二次隊が出ました」
俺たちは災害派遣の、いわゆる「ファストフォース」という初動対処部隊に属している。すでに本隊は先行し、災害救助現場に到着しているはずだ。
「また脇坂のやろうに先、越されちまうな」
「脇坂三尉は幸田三尉の同期でライバルですから張り合うのもわかりますが、この状況じゃ仕方ないですよ」
「べつに張り合っちゃいねえけどよ、むしろあいつの方が張り合ってくんだ。俺がレンジャーの資格とりゃあ、あいつもしゃにむに取りやがって、おまけにやたら絡んできやがる」
「幸田三尉が好きなんですよ」
「やめろ。気持ちわるい」
ゴゴゴゴと地鳴りが鳴っている。地震のようだ。
「かなり揺れてやがるな」
「震度四。よくない傾向です」
「被災地までは?」
「もうすぐです。この先の小川を越えたところです。すでに到着している本隊のドローンから上流の映像が来ていますが、ちょっとまずい感じですね」
それによれば至る所で小規模な土砂崩れが頻発しているらしい。
「山崩れ、それにともなう大規模な土石流が起きるかもな」
「やはりいたるところで地滑りが観測されています」
「ヤバいな」
状況は悪くなるいっぽうだった。
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