時を越え

2/12
前へ
/12ページ
次へ
「ぼくの名前はなんでしょう!」  太陽傾く西の空。朝焼け公園に伸びるは4つの影。 「ええとねえ、君はゲンタくん。確か昨日は、砂場でお山を作っていたねえ」 「あたり!」  サイズの異なる影の持ち主は、その大概が小学生。 「じゃあわたしの名前は覚えてる?」  立て続けに質問をされた老婆は、ベンチで幾らか前のめりになると、半分ほどしか開いていない濁った瞳を、ひとりの少女へと向けた。 「あーはいはい、覚えてますよ。あなたはユカちゃん。小学5年生ね」 「あったりー!」  2問連続で正解した老婆を前に、ゲンタとユカは、パチンと手と手を合わせて喜ぶ。 「じゃあわたしは?わたしーっ」  ゲンタの妹のナナコもまた、自身を指さし老婆に尋ねる。いつの間にやら閉じられていたのは、老婆の濁ったふたつの瞳。それを薄ら開けた老婆は、面前の女の子をまじまじ見つめた。 「あなたはカナコちゃん」  その瞬間、ナナコの頬がぶうっと膨らむ。 「ちがうよおばあちゃんっ。わたしの名前はナナコだよ、なにぬねのの、ナ!」 「ああ、そうだそうだナナコちゃん。ずいぶん背が伸びたんだねえ」 「ええっ。昨日も会ったのにい?」  あはははと、たった4人の笑い声でも、この小さな朝焼け公園を包むのには十分。  茜色の空では1羽のカラスがカアと鳴き、今日という日の終わりを告げた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加