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「ユウコちゃんは、いくつになったのお」
翌日の老婆は一昨日より、昨日より、元気があるように見えた。
名前を間違えられたユカは、小さな溜め息をつく。
「おばあちゃん、わたしの名前はユカだよ」
「ユカ……?」
「ゲンタと同じ、小学5年生」
「はあ、ゲンタ?」
そんな会話を耳にしたゲンタは、すべり台から勢いよく身を滑らせ、一目散にベンチへ駆けた。
「もー、おばあちゃんってば。いい加減ぼくの名前、覚えてようっ」
「あらあら、はじめまして。坊やは学校行かないの?」
「はじめましてじゃないってばあ!」
ユカはふたりのそんなやり取りに、笑いを堪えきれず腹を抱えた。
砂場で作った団子を手に、てくてくと老婆の元まで運んだのはナナコ。
「おばあちゃん、これ食べるう?お団子作ったの」
開いた手のひらでそれを見せると、老婆は物珍しそうに口を窄める。
「まあ、こんな大層なもの、どこから頂戴したんだい?」
「ナナコがお砂場で作ったんだよ」
「お砂場?そんな施設ができたのかい」
緊張などしていなくても、膝から浮かせれば小刻みに震え出す老婆の手。心許ない両手で泥団子を受け取った彼女は、それを口まで運ぼうとした。
「あっ、だめ!おばあちゃん!」
そのさまに慌てたゲンタは、咄嗟に老婆の手を払う。地面へ叩きつけられた泥団子は無論、丸の形が崩れて無残な姿に。
開きっぱなしの口のまま、ゆっくり首を動かす老婆。自身の足元の光景を見た彼女は、眉を斜めに曲げていた。
「あー……なんてもったいないことを……」
その時の老婆がとてもがっかりしたように見えたから、ゲンタの心は痛くなった。
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