一年後

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 1ヶ月後、令亜は恐ろしい程に機能を回復させ、兄や両親、理学療法士、看護師達を驚かせていた。この世への執念だな…と朔弥は笑った。 「令亜、年末から家へ戻るか?」 朔弥が体の機能を本格的に戻す為に退院するか?と聞いて来た。 「うん。帰る。あ…お兄ちゃん、スマホは?私の。」 「自宅に置いてあるよ。何かたまにメールがブンブン入っていたけど。」 令亜の事故のニュース後から令亜のスマホにはよくメールが入る様になり、家族で騒がしいスマホになったなと笑っていた。 「柚葉かな?あ、お兄ちゃん柚葉に私が目を覚ましたの言ってくれた?」 「ん?」 朔弥は目を逸らしてニヤニヤする。 「あ…お兄ちゃん何か企んでるでしょ。」 令亜が言った途端、病室の扉が勢いよく開いた。 「もー!朔弥君!!ほんっとにウソが下手!もぉ!」 柚葉が朔弥に抱きついてぷうっと膨れて見つめ合っているのを見た令亜は口をあんぐり開け間髪入れずに聞く。 「え…何…?お兄ちゃん!?まさか柚葉に手を出したの!?やだ!ロリコン!!」 「バカっ!!誰がロリコンだ!」 「あのね令亜。令亜が眠っている間に…ふふ。朔弥君とお付き合い始めました!よろしくね!結婚の約束もしたから!」 「実は…そうなんだ。あの、お前が意識なくて柚葉も凄く凹んでて、俺も…ほら、やっぱり妹が心配で…柚葉と励まし合ってたら…な?柚葉。」 「ね!朔弥君!そう言う事なの!ふふ!」 柚葉が笑顔で朔弥を見つめると、朔弥も嬉しそうに微笑み、令亜は(勝手にやってろ…)と鼻でフンと笑った。 そして年末、令亜は退院すると柚葉にお願い事をし、退院早々にバイトをしていたケーキ屋へと向かった。 「ねぇ令亜、マジで毒吐きに行くの?そのー…外面だけがいい感じの先輩に。」 柚葉は「意識戻ってから昔の令亜が戻って嬉しいけど、ちょっと昔よりも強過ぎ!」と笑う。 「あのね、使えねーなって言われていたからねー。使いこなせてねーなバカが。って言いたいだけよ。」 令亜はご機嫌に大けがをしたのも嘘の様に足取り軽く歩く。 「そういえば…久遠最悪だね。朔弥君から聞いたけど…」 「あぁ。いいのよ、だって目の前でジェットコースターから転落していく彼女を見てさ、あれでPTSDにならない方がおかしいから。それに私見てると思い出すだろうし。まぁキスもしてなかったから…私にとっては幸いだったわ。」 令亜は笑顔で返す。 「まぁねー…でも何か…冷たいと思った。」 「んー…冷たいと言えば冷たいと思うけど。まぁ彼にしかわからない事情もあんのよ。」  柚葉を宥め話していると一年前にバイトをしていたケーキ屋に着いた。その日はクリスマスで外でクリスマスケーキを売っていた。 自分自身も外でクリスマスケーキを売り子で売っていたが、今思うとよくやってたわ…と鼻で笑ってしまう。 令亜は店の扉を開けると目の前に丁度面ヅラはいい、裏では令亜の悪口を言っていた先輩と目が合った。 「やだ!筒井さんじゃない!?生きてたんだ!」 明るい笑顔と声で嫌みたらしく相変わらず言うので令亜はイラッとする。 「生きてたって…ご無沙汰してます。先輩はまだいらしたんですね。」 「え…ええ。あ、今日は何を買いに?あ、それとも筒井さん、またここでバイトでもするの?」 嫌みったらしく高らかに笑う先輩に令亜は鼻で笑い、大きく息を吸う。 「は?こんなとこでするわけねーだろ。あんたに一言言いに来たのよ。死の淵から生き返って来たから。」 「え?」 先輩は令亜が一年前と人が変わった様な言葉で話すので目を見開いて驚いている。 「いつも、あいつ使えねーなって言って頂いて…ありがとうございました!お返しで伝えに来ました。お前使いこなせてねーな!バーカ!頭悪いクセにイキってんじゃねーよ。」 令亜がそう言うと柚葉も含め周りはシン…となった。先輩は口をパクパクとさせ、まるで金魚の様だ。 「それだけです。じゃあ、失礼します。柚葉、帰るよ。」 令亜は柚葉の手を引っ張り店を出た。 店を出て大通り公園のベンチに座った途端、2人で爆笑し出した。 「見た?あの金魚みたいに口パクパクさせてた顔!!」 令亜はお腹痛すぎと言って笑いが止まらない。 「れ…令亜…子供の頃より本当にパワーアップしてんだけど?どうしたの?!朔弥君が意識失っている時に何か経験したかもって言ってたけど?」 柚葉が聞き、令亜は少し考えてから話し出した。 「えーと…この話を柚葉が信じるか?信じないか?は任せるけど…」 令亜は転落した後の話をし出した。前世なのか?先祖の体に乗り移ったのか?と思う体験をし、そこで久遠そっくりの久と修吾と言う医師を目指す青年に出会った事。修吾とやり取りしているうちに修吾を好きになり、一度だけキスを交わした事。そして、昔からの財閥の婚約者と婚儀の日に意識を失いこちらへ戻って来て目を覚ましたと話した。 「…じゃあ、令亜は修吾さんとこの世界で…また互いに探して必ず見つけ出すって約束して来たの!?」 柚葉は「そんな無茶苦茶な!?」と驚く。 「でも、伊野尾さんという苗字の教授が居て、息子さんも私達と同年代で存在しているのはお兄ちゃんに確認したから。」 「令亜、世の中に伊野尾って苗字の人が何人居るのよ?」 「少ないでしょ?うちらみたいに筒井だ田村だは多いだろうけど?医師で伊野尾ならある程度絞れるし。大丈夫!絶対修吾を見つけ出す!」 令亜はガッツポーズをして張り切るが、柚葉に一言突っ込まれた。 「その前に、一月から復学でしょ?一年もロスがあるんだから、令亜先ず勉強じゃないの?朔弥君心配してたわよ?単位取れるかなぁ?って。」 柚葉の言葉に令亜は固まる。 「…柚葉、暫くウチ泊まる?」 「えー、でも夜は令亜とじゃなくて朔弥君とこで寝るよ?」 「…バカップルめが。変な声聞かせないでよ。てかやるなら他所行ってよ。」 「ひどーい!!てか、そんな話こんなとこでしないでよ!!しかも小姑みたい!!」 「誰が小姑やねん!」 令亜は柚葉と暫く公園で言い合いが続いた。
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