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「筒井令亜さんのご家族ですか?」
久遠は看護師に話しかけられ顔を上げると少し戸惑う様な表情を受かべた。
「いえ…僕は彼女の…令亜の…彼氏の瀬戸久遠です…。あの…令亜は…どんな状態なんですか?」
看護師は久遠に話せる範囲のみ話してくれた。
令亜は転落時に丁度下に大きな木があり、それがクッションとなって奇跡的に死ぬ事だけは免れたが頭を打っていた為、意識不明の重体となっていた。
出血が多かったのは頭を打ったときに何箇所かパックリ割れそこからの出血と木で体が切れたり擦れたり裂傷が出来てあちこちから出血していた。
病院は令亜の家族に急いで連絡し、暫くして令亜の両親と兄が駆けつけた。
令亜の家族が駆け付けると、久遠は令亜の家族に「申し訳ありません…」と何度も何度も頭を下げ泣きながら謝っていた。
「久遠君、シートベルトが壊れていたって…だから仕方なかった。令亜は運が悪かったんだ。」
令亜の兄、筒井朔弥が久遠に頭を上げる様に言い「大丈夫だから。」と慰めた。
令亜の両親は遊園地側と令亜の件で話があると言い、令亜の様子を見て後は朔弥に頼みまた直ぐに警察署へ向かった。
久遠は朔弥と一緒に帰る事になり、朔弥の車に乗り込んだ。
朔弥は少し考えて久遠に話し始めた。
「久遠君、令亜と付き合ってるのかい?」
「はい…今日、ジェットコースタに乗る前に告白しました。令亜さんはOKしてくれて…。」
「そうか…久遠君、兎に角令亜は一命は取り留めたが…この後君が令亜との交際を続けるのか?それともナシにするのかは君が決めなさい。」
「え?」
「令亜は…元の様に戻るのか?それともこのまま植物状態になるのか?それとも…やはり転落しているからこのまま臓器が弱って亡くなるのか?障害が残った状態で生き続けるのかは医者にもわからないそうだ。」
「………。」
「正直、君も後々PTSDが出て来るんじゃないかと僕は思ってる。目の前で…彼女が吹っ飛んで行って気が付いたら血にまみれて倒れていた。正直俺でもキツイと思う。」
「君は若いから余計に耐えるのはきついだろう。令亜を見る度に今日の事を思い出す。判断は君に任せるけど…よく考えなさい。」
「はい…わかりました。」
久遠は何も考えられず、朔弥の言葉を聞いていてもただただ茫然としていた。
「もおっ!!ほんっと!当たんない!!あの的動いているんじゃないの!?」
「レイお嬢様の集中力が無いからだろ?」
令亜は弓の練習で全く的に当たらずヒステリックになっており、久はそれを見て呆れた顔をしていた。一体何本放てば一本くらい当たるのだと事あるごとに毒付いてくる。
顔は久遠にそっくりだが、この久は口が悪く言いたい放題言うので令亜を余計に苛立たせていた。
「っとに…気の短いお嬢様だな。…てかさレイは何処へ行ったんだ?」
久は令亜に聞くが令亜は「知る訳ないでしょ?!」とキレる。
「あー…そうだ。お前の本当の名前は?レイお嬢じゃないんだろ?」
令亜は少し考え、悩んだ末に話し始めた。
「私は…筒井…令亜…20歳。…未来の国立大学の医学部生よ…。この時代では認められていないでしょうけど?医女なんて。」
「え?筒井…?お前子孫なの?」
令亜が筒井と名乗り久は驚いた顔をした。
「知らない。逆に私がレイだったのかもしれないし。それにうちは普通の一般家庭よ。」
こんなお屋敷に住んだ事なんかないと肩を竦める。
「何が何だかわかんねーな!まぁいいや。とりあえずもう一回やれ。」
令亜は弓を渡され仕方なく弓を引く。集中し、矢を放つと横から不躾な言葉が飛んで来た。
「ヘッタクソな弓引きだな。」
令亜は聞き逃しておらず、声のする方へ振り返ると、一人の若い男が立っていた。
「修吾!!久しぶりだな!」
久は久よりも更に口の悪そうな修吾という男の所へ駆け寄った。
「久、お前まだここのお嬢様の弓の練習なんか見てんの?」
修吾は口の端を上げ、令亜を見るとフンと鼻で笑った。
「まぁな…仕方ないよ。旦那様と奥様から頼まれてんだ。これからの時代、女性も強くならなければって。」
「これからの時代ねぇ…女は飯作って、掃除して、洗濯して、夫に大人しく抱かれて子供産んで育ててりゃいいんだよ。」
修吾の言い様に令亜は瞬間的にキレ、矢を修吾の足下に放った。
「おい!あぶねーだろ!!」
「謝りなさい。」
「はぁ?!」
「無礼な人間ね!世の中の女性に対して何て失礼な思考をしてんのよ!?あんた頭おかしいんじゃ無いの?!」
令亜は現代ならばあり得ないという気持ちが湧き上がり、修吾に謝れと叫んでいた。
「何だ?お前?たかだか金持ちの令嬢が弓だと?そんなヘッタクソでよく弓引きなんかするな?頭もわりーんだろ?令嬢らしく大人しく生ぬるい本でも読んでろ!」
修吾の追い立てる様な言葉に更に怒りが湧き、令亜は修吾に向かい歩き出し、修吾の目の前で止まる。
「何だよ?やるのか?」
修吾が嫌味ったらしい顔をした瞬間、令亜は修吾にグーパンをお見舞いし、思っていたよりも力の強い令亜のパンチに修吾は吹っ飛び、驚いて目をシロクロさせていた。
「舐めんじゃ無いわよ。2022年から来た女子を。」
令亜がそう言い放つと修吾は口をポカンと開け、久は何で言うんだと天を仰いで目を閉じた。
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