9人が本棚に入れています
本棚に追加
屋敷へ戻り着替えをさせられ一息つけたのは夕食が済んだ後だった。
部屋を見渡すが高級そうな上等な家具が多く、部屋に居ても落ち着かない。
結果的に落ち着くのはベッドの上でゴロゴロしている時だけだった。
「レイ様、旦那様がお呼びですよ。」
「お父様が?」
令亜はお付きのお手伝いさんに父の部屋へ行くように言われ、二階の父親の書斎に向かった。
「お父様?お呼びですか?」
丁寧な話し方など実の親にも兄に対してもしたことが無いが、やはり自分は令亜ではなくレイなのかと思うほど、話せば自然に丁寧なお嬢様らしい言葉も出て来た。
恐らくレイが幼い頃から身に着けた礼儀や所作であり、既にしっかりと身に付いているものなんだろうと思った。
部屋へ入り父の目の前のソファヘ座ると父が笑顔でレイに話をし始めた。
「レイ、弓はどうだね?」
父は自分が勧めたのもあり、ニコニコして練習の上達具合を聞いてきた。
「あー…なかなか上手く出来なくて…。久さんに集中力をって言われます。」
「そうか。何だか…久と最近仲が良いみたいだね。」
父は探る様に聞いて来る。
「あ…心配される様な事はありませんから。それに久は我が家の使用人ですし。あの、お父様!それよりも私、医師になりたいんです!」
試しになれるか探る事にしたが、医師と言った途端父の顔が曇った。
「レイ、何を言っているんだ…最近やっと明治になって日本にも尋常小学校が出来た所で、レイくらいの女子が学べるところは未だ殆ど無いんだ。そんな事よりも18歳になったら結婚して…」
父がにこやかに結婚の事を話し出した途端、令亜の目が吊り上がった。
「イヤよ!!何で18歳で結婚なんてしなくちゃならないわけ?!私はそんなつまんない人生を送りたくありません!いずれするかもしれないけれど、あと2年でなんて…冗談じゃないわ!!」
令亜は怒って立ち上がり父の話を遮り思い切り扉を開けると書斎を走って出て行った。父はレイの初めての反抗でびっくりしたのと同時に、今までのレイと違うので驚きと動揺を隠せなかった。
令亜は屋敷を飛び出し使用人の住まいの方へ走って行くと久と修吾が馬を洗っていた。
「令亜!どうしたんだよ。」
久は額に汗をかき息を切らせながら半泣きの令亜の顔を見ながら自分の手拭いで顔の雫を拭ってやった。
「お…お父様が、18歳になったら結婚しろって…。」
「まぁ、この時代では妥当だぞ。」
修吾が覗き込んで話す。
「そんな…。無理だし。見ず知らずの…きっしょいヤツと結婚!?んで初夜?!有り得ないんだけど!!」
令亜の物怖じしない発言に修吾と久の方が赤くなる。
「未来人の女は…恥ずかしいって言葉を知らんのかよ?初夜だなんて…平気で言うなよ…。」
久は令亜に呆れ口調で咎める。
「じゃあ無理矢理結婚話されて話しどんどん進んだらどうすんの?」
修吾は試しに聞いてみようと思い令亜に聞くと、令亜は仁王立ちになりドヤ顔をして言い放つ。
「逃げる。そして二度と縁談が来ない様にする。」
「無茶苦茶だコイツ…。」
修吾は頭を抱える。
「令亜、お前縁談来ない様にしたら…お前の存在もこの世から消えるんじゃないのか?」
「あ!修吾凄い!!カンが冴えてるわね!」
「…誰でもわかるだろ…。」
「…そうよね。」
修吾は苦笑いしながら令亜のオデコをデコピンした。
「それよりも令亜…お前、親父さんの立場を考えろよ…。」
久が咎めると令亜は「何の立場よ?」と眉間にシワを寄せて聞く。
「お前の親父さん…政治家だぞ…。」
「は?」
「は?って?!お前、自分の親の仕事くらい把握しておけよ!」
久はほんとに…と令亜の大雑把さに目を瞑り、大きな溜息を吐く。
「何の政治家よ?!」
「衆議院議員。」
「げっ!」
「げって…未来でもまだあるんだな。」
「消えて無いわよ。政治家は。」
令亜がそう言うと政治関連は何百年経っても変わらないんだなと久と修吾が二人で頷いている横で令亜はとんでも無い家へ来てしまったと溜息を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!