8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
一年後
「先生!患者が目を覚ましました!!」
意識が少しずつ戻り、令亜は薄ら目を開けると天井が白く現代のLEDの蛍光灯だと気付き、現代へ戻って来たんだと気付いた。
どれくらい眠っていたのか、自発呼吸が出来ていなかったのか?喉は挿管されていた。
手足は強張り動かない。首は一応動くが、長いこと動かして居なかったのか動きが固く左右に動かせる範囲が狭かった。
廊下でバタバタと慌ただしく走る音が聞こえ、病室の扉が勢いよく開くと兄の朔弥が飛び込んで来た。
「令亜、令亜!わかるか!お兄ちゃんだぞ!」
兄は令亜がやっと目を覚まし、安堵したと同時に涙を流しながら大きな声で令亜に話しかけた。
令亜は最初に運ばれた病院で状態があまり良くなく意識レベルも限りなく低かった為、朔弥が勤める県内で大きい総合病院へ即座に転院させられ、精密検査をしそこで朔弥が再手術をして意識が無かった約一年間病院で眠り続けていた。
「あ…あぁ…」
「令亜。良かった目が覚めて。分かるか?お兄ちゃんだぞ。筒井朔弥。」
令亜は頷き、体を動かそうとするがやはり上手く動かせず自分自身に煩わしさを感じた。
「令亜、とりあえず父さんと母さん呼ぶから待ってろ。」
令亜はまた頷き静かになった所で改めて考えていた。明治時代に何故か飛んだ事。そこで久と修吾と言う青年と出会った事。そして祝言の日、別れ際に修吾に戻れたら…あなたを探すと伝えた事。
もしも目を覚ますことがあったらきっと忘れてしまうと思っていたが修吾の事も自分の身に起こった不思議な体験も覚えていた。
そして意識がはっきりして来て令亜は飛び起きた。
「修吾!!」
言葉にならない声で叫ぶと見ていてくれた看護師に驚いて叫ばれた。
「令亜さん!そんないきなり起き上がらないで!」
看護師は令亜をまたベッドに寝かせようとするが、令亜は首を横に振り、喉に入っていた挿管の管を引き抜いた。
辺りに少量の血が飛び散った。令亜は早く元の生活に戻らなければという気力に満ちていたが、看護師は「お願いだから大人しくしてください!」と令亜に懇願した。
「令亜!大丈夫なのか!?そんないきなり起きて?!」
朔弥が両親と病室に入って来て、ベッドに座っている令亜を見て目を見開いて驚き口をポカンと開けた。
「おはよう。お父さん、お母さん、お兄ちゃん。多分…久しぶり?」
『お…おはよう…。久しぶりだね…。元気で…良かった…』
3人は平然としている令亜を見て唖然とする。
一通りの検査をして特に異常も無く、落ち着いた所で令亜は兄から転落した時の状況、怪我の具合等を説明してもらった。
転落時、丁度下に大きな木がありそれでワンクッション出来、そのまま木の中を落ち、かなり切り傷や擦り傷、裂傷が出来たが転落スピードが緩まり、落ちた地面も幸い土の上で死ぬ事は免れた。左腕の二の腕、右脚の膝から下を骨折したが、兄の手術で綺麗に治したと聞いた。他の縫合した箇所も兄が出来るだけ傷が残らないように縫合し、目立ちにくい状態にしてくれてあった。
「ラッキーだったのね。まだ。」
令亜は大きく息を吐き出した。
「まぁねー、ほんっとに普通なら人生で体験しない様な事故に遭って…あ、遊園地からはしっかり踏んだくっといたから。」
母はドヤ顔をする。
「い…幾ら?」
「ざっと五千万程よ。」
「行ったねぇ?!」
令亜は目をまん丸にして驚く。
「当たり前でしょ?大事な娘が死ぬか生きるか瀬戸際だったのよ?!体傷だらけだし。正直少ないわよ。しかもジェットコースターのシートベルトが壊れてるって…全国ニュースにもなったのよ!?」
母は一年前の事故の後とても大変だったと令亜に話した。
「ああ…そうか。まぁそうよね…って!…ああっ!!」
「どうしたんだ?!」
両親は令亜の大声に驚く。
「大学は?!どうなったの?!一年も…」
「ちゃんと休学届けを出してあるよ。安心しろ。」
兄が入って来て大学の事は心配するなと言い、令亜は安堵した。朔弥は今までの事を話しながら聴診器で令亜の胸の音や肺の音を確認する。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「ん?何だ?」
「伊野尾って苗字の人で知ってる人居る?お医者さんとか…で…。」
令亜は修吾の苗字を言った。代々医師家系ならば…続いていればもしかしたら…と思った。
「あー…そういえば大学の時、伊野尾教授って人が居たなぁ…大学病院に。」
「ねぇ、私と同じ歳くらいの息子さんとか居ない?!」
令亜は食いついて兄に更に聞き出す。
「どうしたんだよ…伊野尾教授の息子さんがどうかしたのか?確か令亜の2つ上くらいで居たと思うけど…その上のは俺と同期だったけど。」
「名前は?!」
「えー?!兄貴の方は伊野尾総一郎、弟は…何だっけかな…伊野尾修吾?だっけ?」
「ほんと!?修吾なの?!」
「令亜!どうしたんだよ!?何か体験して来ちゃった?もしかして?」
兄はたまに患者からも聞く事があり、令亜もそのパターンだろうなと笑った。
令亜は体験した事を素直に話し兄を驚かせたが、それが本当ならば修吾も前世の記憶があるといいなと笑った。
「あ…令亜…そういえば久遠君だけどな…」
兄は伝えなければと思い、溜息を吐いて話し出すと、令亜はニコッとした。
「あー、いいよ。あんな付き合い始めて初日に…だから別に気にしてない。それに修吾を好きになってしまったから…私はそれよりも修吾を探さないと…」
令亜が笑って言うと兄は微妙な顔をする。
「あのな…まぁ久遠君は令亜の傷だらけの姿と目の前で転落して行くのを見てPTSDになってしまってな…事故から数週間後にはお前との交際を断って来たんだ。」
「妥当だと思うよ?」
「いや…」
「イヤ?何よ?」
「それが…あのクソガキ、暫くして直ぐに他の女の子と付き合い始めていたんだよ。」
兄は溜息を吐き、「何なんだろうな?」と呆れていたが、令亜は「それも運命だったんじゃない?」と笑って済ませ、それよりも早くリハビリメニューを考えろと兄を急かした。
最初のコメントを投稿しよう!