人生の転機

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人生の転機

 雪が降る夜。 辺りはカップルたちや友達同士、家族がとても楽しそうにしている。 寒空の中ケーキ屋の前でクリスマスケーキを売る女性。 筒井令亜、大学2年生。国立大学の医学部へ通っている。性格は大人しく物静か。中学の頃まではお転婆で明るく元気が良く友達も多かった。高校は中学の担任に勧められて希望より一つランク上の進学校を受験。合格して入ったが、周りが天才が多くついて行くのに必死でいつの間にか周りと口をきく事さえ無くなった。医学部へ入れたのも奇跡だと高校の教師に他の生徒の前で言われプライドもズタボロになった。 大学へ入って学業に追われる日々。それでもアルバイトを始めたのは社会性を身に着ける為、親の負担を少しでも減らす為、そして少しでも昔の自分に戻るためだ。 「筒井さん、ケーキ売れた?」 先輩のスタッフが気にして外へ様子を見に来てくれた。 「はい…少し…時間まで頑張ります。」 「筒井さん、私が代わるから中の片づけやったら帰ってもいいわよ。時間もあと30分だし。」 「…わかりました。ありがとうございます、お願いします。」 令亜は厨房の片づけをしてバイト先を後にした。  帰り道、雪も降り積もり足元も冷たくなり令亜は惨めな気持ちになって歩いていた。バイトでもあまり役に立てない…それもこれも全て高校の選択を間違えたからだ。高校を仲良しの同級生達と同じ進学校へ行けば…幼馴染の親友と同じ高校にしておけば…あんな惨めな思いもせずに楽しく高校生活が送れたのにと未だにずっと引きずっていた。 「令亜!!」 歩いていると後ろから声をかけられた。 「久遠…」 同級生の瀬戸久遠が令亜を見つけて走って来た。久遠は中学からの同級生で部活が弓道部で一緒だった。いつも令亜の側に何となく居て意識はした事があったがいつもニコニコとしている久遠が考えている事が令亜にはさっぱり分からずいつの間にか意識する事はなくなった。  高校は互いに別の高校へ進学し、久遠からは時々メールが来たりしていたがその頃には令亜自体が学校の勉強で精一杯で余裕が無く、精神的に参っていて殆ど返事をする事がなかった。そうしているうちに仲の良かった友人達は離れて行ったが、久遠はそれでもメールを時々してくれていた。今でも令亜を見かけると声をかけてくれる。 「今バイトの帰り?」 「うん。」 「ケーキ屋さんだっけ?」 「うん。」 「…俺が話しかけるのやだ?」 「うん…ん?いっ!嫌じゃないよ!!ごめん。あんまり聞いてなかった。」 令亜は急いで訂正し謝ると久遠は慌てる令亜を見て笑い出した。 「令亜、あんまり聞いてなかったの方が結構酷いと思うけど?」 久遠は面白過ぎて腹が痛いと言って雪が積もる地面に座り込んで笑い出した。 「くっ!久遠!!笑いすぎ!!それに下に座ると雪で服濡れるよ!?」 「あ、あぁ。それよりも令亜が笑かすからだろ?」 「ごめん…。久遠もバイトだったの?」 「あぁ。ちょっと金が要るから。」 久遠はニカっと笑って答えると令亜は怪訝な顔をして久遠を見た。 「…どうせ彼女とかにあげるんでしょ?クリスマスプレゼントを。」 令亜がカマをかけると久遠は少し考えて令亜の顔を見た。 「お前、明日暇?」 「え?!」 「バイトある?学校は冬休みだよな?」 「バイトは休みです…学校も休みだけど…」 「じゃあ、明日の10時に令亜の家まで迎えに行くから!」 「え!?」 「ちゃんと準備しておけよ!!」 久遠は笑顔でそう言って帰って行った。 自宅へ戻りクローゼットを開けると…「まともな服が…無いかも。」と一人呟き床に座り込む。まさかいきなり2人で会う事になるとも思っておらず、しかも昔一度気になっていた久遠に誘われるとも思っていなかった。 服も多国籍状態でどれを選んだらいいのか分からず、幼馴染で親友の田村柚葉に電話をすると直ぐに行くと言ってくれた。 「令亜!服、私のも持って来たヨ!!」 柚葉は小さい頃からのご近所さんで幼馴染だ。今でも令亜の良き理解者で、明るく元気な女子だ。 「久遠に誘われた???」 「うん。」 「そっか…やっぱり噂は本当だったんだ。」 「何の噂よ?」 柚葉は高校の頃の話を令亜に話し始めた。 柚葉と久遠は同じ高校へ進学し、柚葉も弓道部だったので高校でも弓道部で久遠と一緒だった。久遠はまぁまぁな高身長で顔もどちらかと言えばイケメンで更に性格も良く当然の事ながらモテない訳が無かった。 だが3年間で告白された数は片手では数えきれない人数だったが誰一人として久遠の彼女になれる女子は居なかった。 そんな中、久遠には別の高校に好きな女の子が居るからだという噂が広まり始め、そこで令亜の名前が浮上したと聞いたことがあったと柚葉は話した。 「え?マジですか?」 「はい。そうなのよ。その頃令亜…進学した高校がレベチ過ぎてついて行くのに精一杯で…言うのは余計な悩み増やすといけないから黙っていたの。」 柚葉はごめんと両手を合わせる。 「久遠の事…友達としか思って無いんだけどな…。」 令亜が溜息を一つ吐くと柚葉は令亜の背中をペシっと叩いた。 「友達なら、服に悩まないよね?こんな時間に親友呼び出さないわよね?」 柚葉は首を傾げる。 「え?あの…」 「令亜、気付こうよ?そろそろ。久遠の気持ちに応えてあげてよ?ずっと令亜の事…えーと…6年間?も好きなのよ?」 「あ…え…」 「あと、令亜。あなたも自分の気持ちにきちんと向き合わなくちゃダメよ。久遠の事多少は…気にならないの?」 柚葉はそう言って自分の持って来た袋を令亜に渡す。 「柚葉…これ?」 「私から令亜にプレゼント。これ着て明日のデート行きなさい!」  2人でクリスマスプレゼント交換を高校生になった頃から始め、柚葉は今年は服だ!と言って令亜に渡した。 中からは可愛らしいワンピースが出て来て令亜は戸惑う。 「え?似合うかな?」 「いーから着て!」 柚葉に促され、プレゼントのワンピースに着替える。 「おかしくない?」 令亜は鏡で見ながら不安げな顔をして柚葉を見た。 「ちーさい時からずーっと一緒に居る私が選んだのよ?似合わないわけない。」 柚葉は韓国系デザインのワンピースを令亜の為に選んだ。 スカートのプリーツ部分に色の切り替えがありおしゃれだ。 「柚葉、ありがとう。」 「どういたしまして!」 柚葉はドヤ顔をして満足して帰って行った。 令亜は肌の手入れをして早めに眠りについた。
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