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――その日、私はシュークリームを買って帰ってきた。
先週の日曜日に買ったものと同じシュークリーム。今度はショーケースの中と同じ、まるまるとした姿でお皿に載せられている。表面だけを香ばしく焼かれた生地がぽってりとしたクリームを抱えて堂々と私を見上げてくる。自信たっぷりに「美味しいですよ」と言ってくる。一週間前に食べた申し訳なさそうに崩れていたものとは違う。
サクッと音が鳴ったのは一瞬。パリッと香ばしい歯ごたえは、すぐにふっくらと空気を含んだ生地の食感に塗り替えられる。サクッ、パリ、ふわ。生地だけでも十分に美味しいのに。そこへむにゅっと飛び出したクリームを着地させれば、バニラの甘い香りがふわりと口内に広がった。手に持った瞬間の重みは口の中に入れた途端に浮き上がるような軽さに変わる。濃厚なカスタードクリームの味はしつこくなくて、すっきりとした甘さだけが残る。生地もクリームも最高なのだから、両方が合わさればもはや最強だった。
「美味しい……」
思わず言葉をこぼせば、ハルが「そんなに?」と正面の席から問いかけてくる。
それだけのことに胸がいっぱいになって、涙はするするとこぼれていった。
「泣くほど美味しいの?」
ふっと息を吐き出すように笑ったハルに
「今まで食べたどんなケーキよりも一番美味しい」
と私も笑って言ってやった。
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