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俺は、夢か幻を見ているんだろうか
自分の手を見降ろす。
1日中、軍手をはめて
荷物を運んだ手は
63才にしては筋立ち、節くれだっている。
アルマーニのドレスシャツのカフスから
金のロレックスをちらつかせ
若く、イキっていた俺の
苦労知らずのしなやかな手は
今は、跡形もない。
俺が63才、ということは
ユリアだって
56才になってるはずなのに
暗がりで見たから
若く見えたのだろうか
それとも
「コパカバーナ」と言う店の名前が
俺にそんな幻影を見せるのか。
ユリアは、
つやつやした髪を翻して
ネオンサインの下のドアの中に消えた。
するとすぐに
ネオンサインの灯も消えた。
まだ11時なのに…
閉店なのだろうか。
俺はふらふらと吸い寄せられるように
「コパカバーナ」のドアを叩いた。
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