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「お父さんとは正反対よねぇ。トモ君。昔から女っ気が無いっていうか……今も独身でしょ?」
「ああ……そういえばそうですね。あまり色恋には関心がないのかと思っていたんですけど……」
「そうでしょうねぇ。トモ君が萌ちゃんと桃ちゃん以外の女の子と一緒にいるところ、見たことないもの」
「あの、さっきも気になったんですけど……桃ちゃんって、“桃花さん”のことですか?」
「そうよ。萌ちゃんのお母さん。トモ君にとっては義理のお母さんね。トモ君、桃ちゃんともとっても仲良しだったのよ」
俺の質問に頷いた志穂さんは、懐かしむように遠くを仰ぎ見る。そうか。この人は萌香のお母さんのことも知っているのか。どんな人だったんだろう。
赤焼けの空に流れ込む、灰色の雲。綺麗な茜色が消されていかないか、俺はふと不安になる。
「って言っても、流石に親子には見えなかったけどね、あの二人。そんなに歳も離れてなかったし。背だってトモ君の方が高くて」
────トモ兄の一番好きなものだから。
何故かはわからない。わからないけど唐突に、いつか聞いた萌香の声が蘇った。
風に荒らされる木の葉みたいに、耳の奥から騒ぎ出す、さざ波。
「あの二人が赤ん坊の萌ちゃん抱えて一緒に歩いてる姿なんか────」
さわさわと緩やかだった音が、ザアアアア、と荒い調べに変わる。
引っかかっていたものが、鮮やかに、見えた。
目蓋の裏にちらつくのは、霊園で優雅に咲き乱れる花じゃない。広い庭に根を張って、儚く震える花だった。
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