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1:彼女の秘密
その日の仕事帰り。前々から気になっていたカフェに入り、真っ先に目が入ったのは、ご満悦な様子でスイーツを頬張る女。
「……長谷川?」
胸元に俺と同じ社章バッジを光らせているあの女は、俺の同期だ。同期の長谷川萌香。仕事の評価もなかなか上向きで、更に持ち前の愛想のよさで周りから可愛がられている女子社員。
連れはいないようだが、孤独感はまるでなかった。頬をもごもご動かすその笑顔は、むしろ幸福で満たされている。コーヒーの匂いが染みついた店の中で、彼女だけ、甘い香りに守られているかのよう。
空いた席に座ることもせずずっと見ていたせいか、彼女の方も俺に気付いた。
「あーっ! 国枝君っ!」
人なつっこく俺の名前を呼んで手を振ってくる、屈託のない笑顔。
俺も会釈で応え、彼女がいる席まで近寄った。
「奇遇だな。こんなところで会うなんて」
「あはは、本当だよねー。まさかこんなところで国枝君に会うなんて思ってもみなかったよ」
「この店、前からずっと気になってたんだ。今日は割と早めに上がれたから……長谷川は? よくここ来んの?」
「うんっ。あたしはね、ここのピーチパイがお気に入りなのっ!」
そう言って差し出された皿には、こんがり焼けた生地の上に白桃を並べた、見るからに甘ったるそうなパイが座っていた。なんとこうばしい。
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