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壁に激突する音を背に、華奢な手を引いて彼女の体を起こす。
「大丈夫か⁉」
何も言わず、萌香は俺の体にしがみついた。震えてる。当たり前だ。こんな暗い場所に無理矢理引きずり込まれて怖くなかったわけがない。
「ごめんっ。もっと早く見つけられなくて……でももう大丈夫だから」
「うん……ありがと、春樹……助けてくれて……」
俺も負けじと、力を込めて彼女を包む。
が、完全に油断していた俺は、頭にとてつもない衝撃を受けた。
「春樹っ……⁉ 春樹!」
あまりの痛みに体が床へ倒れ込む。その拍子に、バックライトを付けたままのスマホが入口に向かって滑っていった。
「テメェ、よくも邪魔しやがったなっ‼」
「ぐっ……!」
立て続けに、今度は腹に蹴りを喰らい、思わず顔が歪む。
それでも腹の虫が治まらないらしく、立ち上がれない俺の頬に、男は更に拳を見舞った。顔のパーツが歪みかねないほどの痛み。口に滲む、鉄の苦み。
「……っもう、いい加減にしてよっ‼」
目を赤くした萌香が、敵うはずもない非道な腕に掴みかかった。
「里中君が用があるのはあたしでしょ⁉ 殴るのも蹴るのも、あたしにすればいいじゃないっ! 何で春樹にこんな酷いことするの⁉」
「萌香……危ないから下がっ……」
「何言ってんの⁉ 春樹の方が危ないでしょ⁉」
さっきまで泣きそうになっていた顔が、眉を吊り上げて俺に食ってかかる。
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