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が、乱暴な力が再び俺を襲うことはなかった。むしろその腕は本人の背中に回されて、品のない顔に苦痛を作らせる。
「いっ、いてぇっ、いてぇよっ……離せっ……!」
「殺人未遂の次は誘拐と暴行か……つくづく気に障る奴め」
生々しい罪状を連ねてダメージを与える低い声。上から光を注いでくる、カバーもバンカーリングもないブラックの長方形。
その容赦のなさが俺を安心させて、みるみる内に体から力を奪っていく。
「里中祐平。今度ばかりは警察に突き出してやる」
男の後ろ。冷たく光る朋紀さんの瞳が、品のない輩を静かに見下ろしていた。
「ま、待ってくれっ‼」
警察。自分の経歴にメスを入れられるのはさすがに堪えるのか、男は怯えた顔で朋紀さんに縋った。
「ちょ、ちょっと、魔が差しただけだってっ……な? 長谷川のことは未遂だし、ゆ、許してくれよ……」
「魔が差した? そんなことで人の妹を誘拐して、ましてや義弟まで殴っておいて、何の詫びもなしに許されるとでも思っているのか? 未遂ならどんな悪意も償わなくて構わないと? お前の頭はとんだ花畑だな」
聞く耳を持たず、容赦なくスマホを操作し耳にあてる朋紀さん。
腕を拘束されて身動きが取れない男の前に、朋紀さんと同じ氷を潜ませた萌香が立つ。
「春樹をこんなに傷付けたこと、許さないから。ちゃんと反省してきて」
抑揚のない声は、絶対零度の視線より何倍も堪えただろう。男はがっくりと肩を落とした。
俺も擁護する気はなかった。萌香に怖い想いをさせたこと、きっちり頭を冷やして反省してもらわないと気が済まない。
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