12人が本棚に入れています
本棚に追加
上半身だけ起こした俺のところに、寄り添うように萌香が戻ってくる。俺の胸に頭を預けてぎゅっとしがみついてきた時には、また震えていた。
「春樹……ごめん。あたしのせいでっ……」
「萌香のせいじゃないよ。そんなことより萌香は? 痛いところとか、気持ち悪いところとか……」
「そういうのはないけど……春樹が元気になってくれなきゃ、全然平気じゃない……」
「あはは。元気だよ。大丈夫。口の中が少し切れたけど歯は折れてないし、頭もお腹ももうあんまり痛くない。こう見えて、俺も結構頑丈なんだ」
「そういう問題じゃなっ……!」
「萌香。これ、春樹君に渡してくれるか」
俺達の会話を遮って、萌香を呼ぶ朋紀さん。急いで顔を拭った萌香は素直にそれに応じた。何でわざわざ彼女を介して、と一瞬思ったけど、本人は暴力男の腕を拘束していて動けない様子だった。
戻ってくると、萌香は「これトモ兄から」と渡してくれた。端が欠けた俺のスマホと、シミ一つない綺麗なハンカチを。
俺と目が合うと、朋紀さんは自分の口の横をトントンつついた。
「口の端が切れてる。痛い時は我慢するな。萌香が心配する」
「あ……ありがとうございます。これくらい何ともありません。でも、お借りします」
俺は素直に乾いた布を傷口にあてる。痛い。だけど、この程度の痛みで彼女を守れたんだと思えば全然大したことない。
それに多分、萌香だけじゃない。俺を心配してくれたのは。
最初のコメントを投稿しよう!