5:卑劣な悪意を払って

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「春樹さん、ありがと。僕じゃ兄ちゃんに敵わなかったから……」 「公平君が呼びに来てくれたお陰だよ」  気付いてもらえなくても、俺は公平君に笑いかける。  あのタイミングで駆けつけに来てくれなかったら、もしかしたら取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。この子には本当に助けられた。 「俺の方こそありがとう。あの人だかりの中で俺のこと探すの大変だっただろうに……萌香を守れたのは公平君のお陰だよ」  少しでも感謝が伝わるように、うつむきっぱなしの頭に手を添える。無理に顔を上げる必要はないけど、いつまでもうつむいてる必要もない。そう元気づけてあげたかった。 「そっか……公平君が春樹を呼んでくれたんだ。あたしからもありがとね」  萌香も俺の手に自分の手を重ねる。  その隣に、もう一つ、全く別の手が置かれた。 「俺からもありがとう。それから……ずっと、君の気も知らずに失礼な態度ばかり取っていてすまなかった。また萌香が里帰りした時はいつでも会いに来てやってくれ」  これまでの非礼を詫びながら、朋紀さんが色素の薄い髪をそっと撫でた。ものすごく優しい手つきで。 「……っよかったっ……今度は、僕も、萌ちゃん守れてっ……!」  いよいよ感情を(とど)めきれなくなったんだろう。公平君は、わんわん声を上げて泣いた。
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