6:争えない血

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6:争えない血

 通り過ぎた後ろ側の空で、花火が打ちあがる。  豪快な音を楽しむ余裕もない俺達は、両親と合流した公平君に別れを告げて、黙って岐路に着いた。とは言っても、来た道をほとんど覚えていない俺は、朋紀さんと萌香に付いていくだけだけど。  点々と飾られた色とりどりの提灯。丸い皮に守られた暖色の灯りは、闇を払ってはくれないけど、幾らか視界をはっきりさせてくれる。  耳障りな蛾が、萌香の耳元にふらりと寄り付いた。 「もう、うっとうしいなぁ……あれ? ……あれ⁉」  近づく虫を払った萌香は、そのまま頭に手をあてる。崩れた感触を何度も確認するように髪をあちこち触ってから、やがて真っ青な顔をして朋紀さんの腕にしがみついた。 「トモ兄どうしよう‼ あたし(かんざし)どっかに落としてきちゃったっ‼」 「あっ、それなら……」 「馬鹿野郎‼」  (かんざし)。そのワードにピンと来た俺が萌香の肩を掴む前に、激しい叱責が轟いた。  俺は一瞬目を疑った。でも間違いじゃない。怒鳴り声の発信源は朋紀さんだった。 「何でちゃんとしっかり髪に留めておかなかったんだ! もう二度と手に入らないんだぞっ」  萌香を見下ろす朋紀さんが、慰めるどころか厳しく彼女を責めた。自転車にぶつかりかけた時も口の周りを汚した時も冷静に注意するだけだったのに、崩れた黒髪を前にした今は眉が苛立ちに歪んでる。  涙目になりながら、萌香も素直に「ごめんなさい」と肩を縮めた。
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