12人が本棚に入れています
本棚に追加
「もし萌香に何かあったらと思うと……怖くて堪らなかった」
掠れそうな呟きは、電灯に集る羽虫よりも頼りない。
憐れむように、からん、とグラスの中で氷が泣く。
「だけどもう無茶はするな。君には怪我をしたら心配してくれる人が沢山いるんだろう?」
君には。
自分には、そんな人はいない。
遠回しに希薄な人間関係を覗かせるニュアンスは、俺の口を止めてしまう。
俺が言い淀んだタイミングで朋紀さんは顔を上げた。真剣な顔を崩さないまま。
「それから……もう一つ、謝らなければならないことがある」
「え? 何ですか?」
「俺が萌香に恋をしている。何故か知らないが君はそう思い込んでいるだろう」
「はい……え?」
俺は瞬きを繰り返した。
朋紀さんが萌香に恋をしている。と、俺が思い込んでいる。と、いうことは。
「え⁉ 違うんですか⁉」
「当たり前だ。どうしてそうなるんだ。全く……」
驚いて目を丸める俺を前に、腕を組み呆れたように息を漏らす朋紀さん。
「俺と萌香は血の繋がった家族なんだぞ。血縁関係を疑っているならDNA鑑定を受けて証明してみせてもいい」
「でもっ……だ、だって、あの時、『愛してる』ってっ……!」
「ああ。もちろん愛してる。家族としてな」
動揺する俺に向かってはっきり宣言される、萌香への愛。何かを無理に押し殺している声色じゃない。
最初のコメントを投稿しよう!