6:争えない血

4/6
前へ
/47ページ
次へ
「もし萌香に何かあったらと思うと……怖くて堪らなかった」  掠れそうな呟きは、電灯に(たか)る羽虫よりも頼りない。  憐れむように、からん、とグラスの中で氷が泣く。 「だけどもう無茶はするな。君には怪我をしたら心配してくれる人が沢山いるんだろう?」  。  自分には、そんな人はいない。  遠回しに希薄な人間関係を覗かせるニュアンスは、俺の口を止めてしまう。  俺が言い淀んだタイミングで朋紀さんは顔を上げた。真剣な顔を崩さないまま。 「それから……もう一つ、謝らなければならないことがある」 「え? 何ですか?」 「俺が萌香に恋をしている。何故か知らないが君はそう思い込んでいるだろう」 「はい……え?」  俺は瞬きを繰り返した。  朋紀さんが萌香に恋をしている。と、俺が思い込んでいる。と、いうことは。 「え⁉ 違うんですか⁉」 「当たり前だ。どうしてそうなるんだ。全く……」  驚いて目を丸める俺を前に、腕を組み呆れたように息を漏らす朋紀さん。 「俺と萌香は血の繋がった家族なんだぞ。血縁関係を疑っているならDNA鑑定を受けて証明してみせてもいい」 「でもっ……だ、だって、あの時、『愛してる』ってっ……!」 「ああ。もちろん愛してる。家族としてな」  動揺する俺に向かってはっきり宣言される、萌香(いもうと)への愛。何かを無理に押し殺している声色じゃない。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加