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じゃああの待ち受けも、単なる家族愛なのか。
耳の奥ではまだ不安定なさざ波が聞こえる。でも込み上げてくるのは安心感だった。張り詰めていた空気があっという間に体から抜けていく。
「勘違いされていることを承知の上で、わざとあんな言い方をした。春樹君の本音が聞きたくて」
「俺を……試したんですか」
「ああ。すまなかった。でもよかった。春樹君が、あんな不躾な質問にも本心で答えてくれる人間で……俺みたいな人間じゃなくて」
「え?」
「萌香の目は確かだと言ったんだ」
もう一度深く、朋紀さんが頭を下げた。
「これからも……萌香のこと、末永くよろしくお願いします」
「あっ……は、はいっ! 喜んでっ!」
思いがけない言葉に、俺も頭を下げ返す。
認めてもらえた。萌香との前向きな未来が見えた。さっきから目まぐるしい感情の入れ替わりばかりで、俺はいよいよ落ち着かなくなる。
そのちょうどいいタイミングで、萌香が風呂から上がってきた。
今度は朋紀さんが風呂に向かう。
束の間の二人の時間。俺達は隣り合って身を寄せ合う。萌香が俺に重心を寄せてきた。シャンプーのいい匂いが、俺の鼻を心地よく染める。
「……トモ兄が戻ってくるまで、こうしてていい?」
「もちろん」
黒髪から流れてくる、清楚な香り。俺はその柔らかい感触に指を通し、何度も梳く。
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