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2:若くてかっこいいお父さん
若くてかっこいいお父さんだな。
玄関先にやってきたその人を見た瞬間、俺は目を見張った。俺達より二十も離れているようには見えない、落ち着きのある精悍な顔。彼女とはまるで似ていないけれど、目じりが細く切れ込んでいる二重の瞳だけは、細やかに彼女の身内だと主張してくる。
二コリともしないその人は、目が合ったその一瞬、鋭い目つきで俺の全身を貫いた。
睨まれたわけでもないのに足が竦むのは、その視線が、俺を射るように真剣なものだったからで。
「春樹。この人、あたしのお兄ちゃん」
全身に広がった俺の緊張を和らげてくれるように、萌香が俺の隣から可愛い声で耳打ちした。
俺の口からは、「そうなんだ」と気の抜けた声が上がる。
「はじめまして。萌香の兄の、朋紀です」
「こ、こちらこそ、はじめましてっ。萌香……さんと、お付き合いさせていただいてます、国枝春樹ですっ」
スマートに差し出された手を、俺は慌てて握る。汗が伝わらないか心配だったけど、軽く握り返された後、すぐにやんわりと離された。
全身の筋肉が強張ってることを、バクバクと激しい心臓の動きで自覚する。脇からも額からも、普段より余計に汗が分泌されているような気がしてしまう。
結婚を考えている彼女の実家。ご家族への初めての挨拶。緊張しないわけがなかった。
「長距離の移動で疲れたでしょう? どうぞ。上がってください」
「あ、は、はいっ。お邪魔しますっ」
冷静に促され、返せたのは上擦った声。
そうか。この人、お兄さんか。
俺の実家より遥かに広い廊下へ踏み出してから、鈍い頭がもう一度呟いた。
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