7:桃が香る園

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7:桃が香る園

 美しく(ひら)いた桃の花に光がかかる。風に揺れる花びらと光が共鳴してさざめく様は、この上なく(みやび)やかだ。よけいな音は何もない。  一生を終えた後、こんなに優しい場所で眠れるなんて幸せだろうな。 「お母さん。ただいま」  光沢を放つ灰色の石に、萌香が花を添える。  今日で三回目になる。ここを訪れるのは。彼女のお母さんの墓参りに来るのは。  ピカピカに磨かれた墓石の前で、萌香は色んなことを語った。来週末に俺との式を挙げる予定だという報告から始まり、四十を過ぎてもなお独身を貫き続けている朋紀さんのこと。毎年実家の庭に咲く、お母さんのお気に入りの花のこと。話はコロコロ変わっていったけど、お父さんのことにだけは一度も触れなかった。 「あたしのお母さんね、名前が“桃花(ももか)”だったの。それで、桃の花が咲くあの霊園にお墓が建てられたんだって」  桃の花が咲き誇る霊園。そこから帰る道すがら、萌香がそう教えてくれた。先祖代々の墓も別にあるらしいが、自分とは一切血の繋がりがない人をそこで眠らせるのは嫌だったのか、朋紀さんがわざわざこの霊園を選んだらしい。 「静かなところだし、今日も日当たりがいいし、あの場所を選んでもらえてお母さんも嬉しいだろうな」 「そうだといいなぁ」  霊園を出て、今日も隣の小さな手を握る。やんわりと、でも深く握り返されて、それだけで胸がいっぱいになった。  (まば)らにしか店の姿がない田舎道。赤く(かげ)っていく空。鳥だか虫だかわからない声が、俺達の横を軽やかに過ぎていく。草むらを元気よく駆け抜けていく子ども達が瑞々しい。
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