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「あら、萌ちゃん? 帰ってきてたの?」
畑仕事の帰りだろうか。麦わら帽子を被り、泥だらけの軍手で段ボールを抱えている女の人が、萌香に温かく笑いかけた。
萌香の方も、「志穂さん⁉」と明るく顔を綻ばせる。
「お久しぶりです! わぁ、何年ぶりだろ? お元気でした?」
「もちろんっ。萌ちゃんも、しばらく見ない間にすっかり大人になったわねー! 綺麗になっちゃってー!」
“志穂さん”と呼ばれた女性は、気の良い笑顔のまま、視線を俺に移した。めざといことに、俺達の手元にも。
「こちらの方は? もしかして……?」
「あ……はい。私の、こ、婚約者です」
あわあわと顔を赤くした萌香は、俺の事をそう紹介してくれた。“恋人”ではなく“婚約者”だと。事実だが、改めてそんな風に言ってもらえると、とんでもなく胸がくすぐったくなってくる。
「春樹。こちら、篠塚 志穂さん。志穂さんもご近所さんでね、あたしが子どもの頃によくお世話になったの」
ご近所さん。田舎にとってのその距離感が未だに掴めないまま頭を下げて軽く挨拶をすると、志穂さんは俺にもにっこりと微笑みかけてくれた。
「そっかぁ。萌ちゃんも、もうそういう年頃だもんねぇ……おめでとう。末永くお幸せにね」
「はい、ありが……あっ!」
雷に打たれたように、なんて言ったら大袈裟だけど、萌香はいきなり大声を上げた。
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