7:桃が香る園

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「春樹、どうしようっ。霊園のトイレにハンカチ置いてきちゃったかもっ! ちょっと取りに行ってくるっ」 「えぇ!? だったら俺も一緒に……」 「いいっ。本当にすぐ戻るから、春樹はここで待っててっ!」  萌香は申し訳なさそうに志穂さんに軽く頭を下げると、歩いてきた道を颯爽と走り出した。 「あらー。桃ちゃんはあんまり走ったりする子じゃなかったけど、萌ちゃんは足が速いのねぇ。もう見えなくなっちゃった」 「そうなんですよ。すばしっこいというか……喧嘩して逃げられた日には捕まえるのが大変です」 「ふふ。元気でいいじゃない」  優しい風が、さわさわと枝を鳴らし、青い葉をいくつも散らせる。 「春樹君。萌ちゃんのこと、幸せにしてあげてね」 「あ、はいっ。もちろんですっ」 「頼もしいわぁ。でもトモ君は寂しがるわねぇ。そうそう、うちの息子も、小さい頃によくトモ君に遊んでもらってねぇ」 「そうなんですか? 朋紀さん面倒見がいいんですね。萌香のことも、本当に大切に想っているのが伝わってきます」 「そうなのよ。トモ君ねぇ、萌ちゃんが赤ちゃんだった頃からすっごく可愛がってたの。ほら、和久(かずひさ)さんが……萌ちゃん達のお父さんがあんなだから」  ずっと穏やかに笑っていた志穂さんが、初めて苦笑いを見せた。  この人も長谷川家の内情を知っているのか。  俺も、苦笑いで返すしかなかった。
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