8:花に秘めた蜜

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 視線が自然と朋紀さんの左手に落ちる。縛られるもののない、長い指。  冷静な()が、また俺を映す。 「何か言いたそうだな」 「あ、その……あの、あの夾竹桃、萌香のお母さんが植えたんですよね?」 「ああ」 「萌香のお母さんって……どんな人だったんですか?」 「……よく微笑(わら)う人だったよ」  切なそうに庭を眺める朋紀さんは、膝の上で手を組み直した。心もとない様子で。 「花みたいに微笑(わら)いながら、毒より深く染みついてくる……酷い女だ」  よく微笑(わら)う、酷い人。その人を、俺はたった一度だけ見たことがある。朋紀さんのスマホの中で。  月の光を浴びる花達が、柔らかい風に撫でられ、大袈裟に踊る。  あれはその人が植えたもの。朋紀さんが萌香を可愛がってきたのも、桃が好きな理由も、全部その人に繋がってる。萌香が朋紀さんに不思議な隠し事をしている理由(ワケ)も。  初めてここへ挨拶に訪れた日の前日、俺は彼女から頼まれた。自分も桃が大好物だということを、朋紀さんには隠しておいてほしいと。 『あたしも好きって知ったら、きっと自分は我慢して譲ってくれちゃうから。子どもの頃からいっぱい面倒かけてきたから、せめて好物くらいは遠慮してほしくないんだ。桃は、トモ兄が一番好きなものだから』  あの優しい口止めは、そういう意味だったんだ。
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