12人が本棚に入れています
本棚に追加
前を行く、真っ直ぐに伸びた長い背中を見つめる。
若いな。初めに受けた印象を、俺はまた反芻する。実際には四十を過ぎているらしいが、外見の印象は三十代後半だ。
どうぞ、と居間に入るよう誘導してくれる左手。そこには光るものはない。
「あ、あの、これっ」
ここまで上がり込んだところで、俺はようやく手元のケーキ箱を思い出し、朋紀さんに差し出した。
「ほんの、ささやかなものですけど、よかったら……」
「ああ……どうも。手土産なんてよかったのに。気を遣わせてしまってすみません」
「トモ兄。これね、向こうで超人気のピーチパイなんだよっ。本当ならピース売りしかしてないんだけど、春樹がお店の人にお願いして、特別にワンホール作ってもらったんだ」
隣から、萌香が助け船を出してくれる。
箱の中身を聞いた途端、朋紀さんの瞳がパァッと輝いた。音もなかった静かな湖に、眩しい朝の光が差し込む。
「春樹君。わざわざありがとう」
「い、いえ、恐縮ですっ」
びっくりして声が上擦ってしまった。突然、おもいきり笑いかけてくるから。
笑った顔もほんのり萌香と重なるし、俺なんかとは比べものにならないくらい整っていて様になる。
この人も本当に桃が好きなんだな。萌香から聞いていた通りだ。
最初のコメントを投稿しよう!