2:若くてかっこいいお父さん

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「じゃあ切り分けてくるから皆で……あ。萌香は嫌いだったな。桃」  何気ないその一言に、ドキリと心臓が跳ねる。  俺の動揺に気付いたのか、萌香は寂しげに微笑みながら、俺に向けて唇の前で人差し指を立てる。可愛いサインが語る、“言わないで”。  今日の手土産にとピーチパイを提案してくれたのは彼女だ。絶対に喜んでもらえるからと。  だけど、この日のために作ってもらった特注のパイは、萌香の口には入らない。 「萌香の好きなショートケーキなら買ってあるから、それも一緒に出してくる」 「わぁ、本当? ありがとトモ兄っ! あたしも手伝うよっ」 「いい。一人で待たされたら春樹君が可哀想だろ。ほら、お前もゆっくりしてろ」  後に続こうとする萌香を座らせて、ポンポンと労うように頭を撫でる朋紀さん。改めて「おかえり」と口に乗せる顔は、とてつもない量の優しさを込めて微笑んだ。底のない愛情をそこに見た気がして、言い知れない暗い風が、俺の胸の中でざわめく。  その不安の正体を掴む前に、朋紀さんは箱を持って居間から出ていってしまう。  俺は萌香の耳元に顔を近づけた。 「……お兄さん、本当に知らないんだな」 「そうだよ。あたしがずっと隠してきたからね」  桃は萌香にとっても好物だということを、朋紀さんは知らない。萌香本人が、子どもの頃からずっとその事実を隠してきたから。 「やったね。やっぱり喜んでくれたね。ずっと食べさせてあげたかったんだぁ。トモ兄、桃が一番好きだから」  これからも教える気はないらしい。そのどこかよそよそしくもある慎ましさは、俺の胸をほろ苦くかすめていく。
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