2:若くてかっこいいお父さん

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 ふとトイレに行きたくなった俺は、萌香に場所を訊いてから居間を出た。  縁側に踏み出すと、風に頬を撫でられる。どことなくどんよりとした、中途半端に生温(なまぬる)い感触。  窓が網戸になっていて、そこからは庭が見渡せた。思わず足が止まる。  一面の緑を背に咲き誇る、ピンクの花。プロペラみたいにねじれた形の五枚の花びらが、好きな方向に(ひら)いて群れている。あんな形の花、見たことがない。 「キョウチクトウ」 「え……?」  深く苦い香りと共に漂う、ピリピリと鋭い視線。  鳥肌が立つのを感じた俺は、咄嗟に声のした方に顔を向ける。  長い廊下の向こう側。三人分のコーヒーとケーキを乗せた長いトレイを手に、無表情の朋紀さんが立っていた。 「夾竹桃(きょうちくとう)っていうんだ。あの花。知ってる?」 「あ……そ、そうなんですか。初めて見ました。えっと……あれは、お兄さ……朋紀さんが、植えたものなんですか?」  朋紀さんは、静かに首を横に振る。 「萌香から訊いてるか? 俺と萌香の母親が違うこと」 「あ、はい……訊いてます」 「そうか。じゃあ話せるな。夾竹桃は、萌香の母さんが好きだった花。あれはあの人が植えたんだ」  不快感か、それとも懐かしさか。少しだけ上がった口角は、ほのかに感情をちらつかせながら、その正体を教えてはくれない。
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