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言葉を続けられない俺をからかうように、緩い風が、網をすり抜けてぶつかってくる。
「戻ろうか。萌香が待ってる」
「あのっ……ト、トイレ、お借りします。すぐ戻りますので……」
「わかった」
頷いた朋紀さんは、先に居間へと歩いていく。
俺もトイレでさっさと用を済ませ、来た道を引き返した。
長い縁側を進みながら、もう一度庭に目を向ける。
前に萌香が打ち明けてくれた。少し複雑な家庭の内情を。
お父さんの最初の奥さんだった、朋紀さんの母親。お父さんの二番目の奥さんだった、萌香の母親。どちらも既にこの世から離れているらしい。そういう事情もあって、萌香と朋紀さんは、兄妹でありながら十七も歳が離れているのだ。
ほんの些細な空気の波に震える花。植えてから何年経っても、花はあんな立派に咲くものなんだろうか。もしかしたら、誰かがマメに手入れをしているのだろうか。
植物をまともに育てたこともない俺に答えが出せるはずもなく、もやもやしたまま居間の前までたどり着く。
「親父には会わせなくていいのか?」
「いいよっ。あんな人、春樹に会わせたくない。あたしも会いたくないし」
穏やかじゃない会話に、俺の足は止まった。咄嗟に壁に身を隠す。
話題の中心は、この家のタブーの人物。
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