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週末、私たちが生まれた町へ行く電車に二人で乗る。
「あの遊歩道の近くで、最後に偶然会ったでしょ?」
「6年前な」
「あの時…お父さんと会った直後に空に会ったの」
「お父さんと会ったのか?」
「うん。大学を卒業する前に一度会おうと思って…学費を出してもらっていたからね」
「そうか。それからは?」
「会ってないけど、誕生日には電話がある」
「電話番号変わってるのに?」
「お母さんが教えているの。万が一、何かがあったときには父親だからねって。それもあってお母さんも‘仲村’のままなんだと思う」
「そうか…中学の途中で名前が変わるのを避けたのかと思ってた」
「もちろんそれもあるだろうけど」
「おばさんの海への愛だな」
「だね。お父さんも20歳までの養育費は欠かすことなく入金してくれて、プラス大学の学費を出してくれてたの。当然のようで、当然でない家庭もあるみたいだから感謝してる」
「やっぱり海を尊敬するわ、俺」
「はい、私の話はもうおしまい。空は?出張中、何食べたの?」
「仕事でなく、食い物の話か」
「仕事も。食品輸入だもの」
空の話を聞きながら、到着までには最初のアジアだけで終わりそうだなと思う。ヨーロッパの話は帰り道に聞かせてもらおう。
「海、この駅いつぶり?」
「6年ぶり」
「マジか…あれ、陸の車」
遊歩道まで歩けば30分以上かかるから、駅までは陸くんが迎えに来てくれたらしい。
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