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宿屋にて
目が覚めると、知らない部屋のベッドの上で私は寝ていた。起きてから、攫われたあとにエリオット様やオーベル様が、助けに来てくれた事を思い出す。
「んっ・・・」
身体を起こすと、節々が痛むような気がしたが、ベッドの横にあるテーブルの上に『おにぎり』と『スープ』を見つけると、何も言わずにスープを一口啜った。
(ん・・・味噌のスープだわ。それと、おにぎり・・・この世界にも、やっぱり『おにぎり』はあるのね)
私はスープにおにぎりを入れると、かき混ぜて食べた。お腹が膨れると、ようやく思考が戻ってきて周囲を見回した。
部屋の外から、ガヤガヤした声が聞こえてくる・・・『飲み屋の2階だろうな』と思った。どこの街でも、飲食店の2階はたいてい宿になっている。
もうカルム国のなのだろうか。微かに聞こえてくる話し声には、カルム国特有の『なまり言葉』が聞こえた。どういうわけか、国や地域によって、喋り方やイントネーションが違うのだ。他の国へ行くと、たまに意味が一緒なのに、全然違う言葉に聞こえたりして、困ったことがある。
ベッドの上でボンヤリしていると、控えめなノック音の後、部屋のドアが開いた・・・部屋へ入って来たのはエリオット様だった。私が起きていることに驚くと、ドアを閉めようとして私に聞いた。
「後で来たほうがいい?」
「大丈夫ですわ」
エリオット様は、ベッドの側にある椅子に腰掛けると、私を見つめていた。
「まだ寝ていると思ったよ・・・様子を見に来たんだ」
「・・・はい」
「ベッドの脇にあった、『おにぎり』食べたの?」
「・・・はい。何だか懐かしかったです」
「オーベルも言ってたよ。「おにぎりだ。懐かしい」ってね」
エリオット様が、ボサボサになった私の頭を撫でながら、優しく話しかけてくれる。
「ここは、もうカルム国ですの?」
「ああ。国境を越えて、すぐの街だよ。1階が飲み屋の造りになってる『ヤドリギ』っていう、お店だ」
あやしい雰囲気になってきて、私は慌てて顔を背けた。
「あ、あのっ。サラは?サラを見かけませんでしたか?」
「サラならオーベルと買い物へ出掛けたよ。何でも今日は月に一度の出し物が、広場であるらしくてね。「息抜きに、2人でどうぞ」って、言ったんだ」
「あのっ、サラには他に好きな人が・・・」
「そうだろうね・・・ただ、オーベルにもチャンスを与えてやって欲しいんだ」
「でもサラは・・・」
「分かってる。ジルだろ?」
「・・・気がついてたんですか」
「そりゃ、何年も一緒にいるからね。さすがに気がつくよ」
エリオット様は笑うと、私の手を掴み指先にキスをした。
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