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司教の息子
翌日。トラスト国へ向かうことになった。急な話だったが、内容が内容だけに、のんびり出発する訳にもいかなかった。
出発前にオーベル様にお願いして、ジェイドに会う手筈を整えてもらった。単に情報収集が目的であったが、気になることもあった。
ジェイドには、司教についての聴取を行うため、城に滞在してもらっているが、実際は軟禁状態だった。許可無しに、誰もジェイドに会うことは許されない状況であった。
「ごきげんよう、ジェイド」
オーベル様と一緒にジェイドの部屋を訪ねると、ジェイドは驚きつつも、私達を部屋の中へ入れてくれた。ジェイドの部屋は、ベッドと机しかない四畳半位の小さな部屋だった。
「アイリス様、一体どうされたのです?」
「色々と聞きたいことがあるの。単刀直入に聞くけど、何故あのような場所にいたの? それから、気絶する前に私に何か言いかけてたわよね。それが私の中で、ずっと引っかかっていたのよ」
「‥‥‥アイリス様、これから少し突拍子もない話をするかもしれませんが、聞いていただけますか?」
「えっ‥‥‥。ええ、大丈夫よ。何かしら?」
私は突拍子もない話と聞いて、アーリヤ国の難民やファーゴ王子、アネッサやリーリャの事を思い浮かべた‥‥‥。何かあるのだろうか?
「実は私には、前世の‥‥‥。前に生きていた時の記憶があるんです。この世界ではない世界なのですが」
「それは‥‥‥」
「信じられないかもしれませんが、あなたはゲームストーリーの中で、悪役令嬢なんです!!」
「へ?」
「『白薔薇シリーズ』の2作目は、1作目と違い、悪役令嬢が主人公の様々なストーリーが展開されます。トラスト国のファーゴ王子や、カルム国のエリオット王子、魔術師団長のオーベルに、護衛騎士のジルが攻略対象になります。この設定のある世界に転生したと気がついた時はもう!! テンション上がりまくりでした」
ジェイドは、話しているうちに饒舌になり、身振り手振りを交えながら、興奮して話していた。
「ちょ、ちょっと待って。あなた前世では‥‥‥。えーと、日本人だったの?」
「はい。バリバリの日本人でした。料理の専門学校に通ってた中条玲太と言います。『白薔薇シリーズ』の大ファンです。アイリス様も、もしかして、もしかしなくても転生者ですか?」
「そうよ。学校に通ってたってことは‥‥‥」
「20才です。でも気がついたら、こちらの世界にいました。たぶん、転生? したんだと思います。どうしてかは分かりませんが‥‥‥。俺、びっくりしました。アイリス様も転生者ですか? 同じ人もいたんだ。良かったぁ」
私が頷くと、ジェイドは嬉しそうに話をしていた。
「それにしても、白薔薇シリーズに続編があったなんて‥‥‥」
「俺も、続編はないって聞いてたんですけど、急にライトノベルで『悪役令嬢』を主人公にした話が流行り始めて‥‥‥。時代の流れを汲んだのか、業界としては異例の悪役令嬢が主人公の乙女ゲームが出たんですよ」
「まさかとは思うけど、バッドエンドは‥‥‥」
「俺もよく覚えてないんですけど、二人で谷底に沈む。とか、そんなストーリー展開が多かったと思います」
(主人公になっても、悪役令嬢だからバッドエンドばかりなのかしら)
「まだ命の危険があるのね‥‥‥。続編があるなんて油断大敵だわ」
「あー!! 本当に悪役令嬢のアイリス様だ。本物に会えるなんて‥‥‥。夢みたいだ」
テンション上がりまくりのジェイドに、オーベル様と私は顔を見合わせると、肩をすくめていた。
「えーと、ジェイド? どうして、トラスト国にいたのか教えてくださる? 前世の記憶は最近、思い出したのかしら?」
私がそう言うと、ジェイドは『心得た』とばかりに話し始めた。
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