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再びトラスト国へ
ファーゴ王子の捜索に協力するため、トラスト国へ馬車で向かうことになった。自分が捕らわれていた国へ出掛ける‥‥‥。それは、自分が思っていたよりも、かなり気が重たいものだった。
城の入口に停めてあった馬車へ乗り込んだ私は、窓から顔を出すとエリオット様へ手を振った。
エリオット様は、馬車に近づき私を見つめると振っていた手を掴み、そっと自分の手の上にのせた。
「アイリス、事件を全て解決しようなんて思わなくていいんだよ。謎は謎のままがいいってこともある」
「‥‥‥はい、エリオット様」
「殿下にしては珍しく、意味深な発言ですね」
今回もエリオット様は他国との外交日程がずらせない為、トラスト国へは護衛としてオーベル様が一緒に行くことになっていた。
「オーベル、私はこれでも堪えているのだよ‥‥‥。言いたいことの10分の1、いや100分の1も言ってないんだ。アイリスに嫌われたくないし、逃げられたくもないからね」
「殿下も大変ですね」
「そんな‥‥‥。それくらいのことで、エリオット様のことを、嫌いになんてなれないですよ?」
エリオット様は、私の髪を一房掴むとブロンドの髪にキスを落とした。
「アイリス、早く戻ってきておくれ」
私は俯くと、顔が赤くなるのを感じつつも頷いた。
*****
2日後。馬車は思ったよりも早くトラスト国へ到着した‥‥‥。オーベル様が馬の足に魔術をかけてくれたのである。
入国した私達は、国境でトラスト国の騎士隊に紹介され、その場で城まで案内してもらうことになった‥‥‥。案内をしてくれる騎士が、こちらの様子を振り返って見ているのが気になったが、あえて気がつかないフリをしていた。
「騎士の様子が何だか変ね」
「ええ‥‥‥。この国に入ってから、何だか良くない気配を感じております」
「良くない気配?」
「何というか、巨大な『闇の魔術』を感じます。おそらく、あまり良くないものでしょう」
「闇の魔術ね‥‥‥。私には、全然分からないわ。他の魔力とは何か違うのかしら?」
オーベル様は、全属性の持ち主だから、きっと何でも分かってしまうのだろう‥‥‥。そんな風に思いながら、馬車の中から外を眺めていると、トラスト国の城が見えてきた。
「えっ‥‥‥」
「アイリス様?」
城は以前に来た時と様子が変わっていた。左半分が、きれいに消滅していたのだ。
断面図が露出していなければ、気がつかなかったかもしれない‥‥‥。それくらい、きれいに消えていた。
「あれは‥‥‥」
「おそらく、『闇の魔術』でしょう」
私は溜め息をつくと、オーベル様を振り返った。
「私が監禁されていたファーゴ王子の部屋も消えているわ。あれで、どうやって探せというのかしら?」
私達の戸惑いとは無関係に、馬車は少しずつ城へ近づいていたのだった。
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