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トラスト国の国王
城の中に入った私達は、謁見の間に案内された。入り口から広間の奥にかけて、赤いカーペットが敷かれており、その先の玉座には太った男性が座っていた。
トラスト国王だと思われるその男性は、私達を見ると、何故かニヤリと笑った。
「アイリス殿、遠いところからよく来てくださった。アイリス殿の協力に感謝の意を表し、息子の正妃になっていただきたい」
「は?」
私は公爵令嬢らしからぬ声を出すと、トラスト国王を睨みつけるように見てしまった。
「息子は貴方に会う前から、隣国から伝わる話だけで、非常に恋い焦がれていたんだ」
(話しだけでって‥‥‥。いったい、どんな噂が流れてるのよ?!)
「私は誘拐事件解決のために、ここへ来たのです。けっして、ファーゴ王子の妻になるためではありませんわ。来月には、エリオット様と結婚します」
私は誘拐されたのだ。それに対しての謝罪はないのかと、憤りを隠せなかった‥‥‥。親が親なら子は子だな‥‥‥。と思ってしまう。
「わかっておる。ちょっと言ってみただけだ。誘拐されてから、かなりの日数が経っている‥‥‥。一縷の望みをかけて、そなた達に頼みたい」
トラスト国王は、椅子から立ち上がると深々と頭を下げた。
「どうか息子を助けて欲しい。充分な謝礼はするつもりだ。よろしく頼む」
*****
城の中を案内され、私達は消えた城との境目にある断面部分に来ていた。
「‥‥‥ここからも、微かですが『闇の魔術』の気配がします」
「そう。私には何もわからないわ。監禁されていた部屋の外は、こんな造りだったのね」
ファーゴ王子の部屋があったと思われる場所の近くから、私は消えてしまった城の先にある森を見ていた。
「そういえば、アーリヤ国の難民はどうなったのかしら?」
「どうなんでしょう? 私には分かりかねますが‥‥‥」
案内をしてくれている騎士と視線がかち合ったが、不意に視線を逸らされてしまう。
「何か知っていますね? 話してはもらえませんか?」
私がトラスト国の騎士へ向かって言うと、問いかけられた騎士は瞳を揺らしながら答えてくれた。
「私から聞いたと言わないで欲しいのですが、アーリヤ国の難民は、捕らえられて地下の牢屋に入れられております」
「捕まった?」
「はい。森の中で不法滞在をしていたのが理由だそうです。聞いた話によると、難民達は奴隷商に売り渡されるのだとか‥‥‥」
「イル王はそのことを?」
アーリヤ国王が、そんな話を聞いたら黙っているはずがない。すぐにでも戦争になってしまうだろう。
「たぶん、知らないかと思われます。申し訳ありません。私もつい最近知ったのですが、どうすることも出来なくて‥‥‥」
騎士は申し訳なさそうに頭を下げた。その様子から、自国のやり方に憤りを感じていることが窺えた。
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