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小さな教会
「あなたの名前を伺ってもよろしいかしら?」
「えっ、私は、その‥‥‥」
騎士は顔を赤くすると口ごもった。
「大丈夫。言いつけたりなんてしないわ」
「はい‥‥‥。ミシェルといいます」
「ミシェル、無理を承知でお願いしたいのだけれど、後で難民の人達がいる所へ案内してもらえないかしら?」
「‥‥‥承知致しました。アイリス様のお望みなら」
*****
その後、私達は客室へ戻り‥‥‥。夜を待ってから地下に続く階段の前に集まった。
ミシェルに牢屋の入口を開けてもらい、錆びついた鉄の格子を開けると、そこには大勢のアーリヤ国民がいた。
私が牢屋の手前にある部屋の中へ入っても、みな動じずに床に蹲って座っている。
「オーベル様、なぜアーリヤ国の難民はトラスト国へ逃げてきたのかしら?」
「さぁ? 申し訳ありませんが、私には分かりかねます」
「そうよね‥‥‥。もしかしたらだけれど、犯人はアーリヤ国の人間なのではないかしら?もしくはそれに近い人物とか‥‥‥。難民がいるから、城の半分しか消せなかったとかは考えられない?」
「その可能性はあるかもしれませんが、今の段階では何とも言えないでしょう。それに、ファーゴ王子を見つけ出す手掛かりには、ならなさそうですね」
「私もそう思うわ」
「あの、差し出がましいようですが‥‥‥」
「何かしら、ミシェル?」
「誘拐犯は修道女の格好をしていたと聞いています。城の教会を調べてみるのはいかがでしょう?」
私とオーベル様は顔を見合せると、頷き合ったのだった。
*****
城の庭園の先に、小さな教会はひっそりと建っていた。それは教会というよりは、小さな小屋だった。
「‥‥‥ずいぶんと小さいのね」
「はい。国王が宗教を忌避している傾向があるため、他国より小さいかもしれません」
「中に入っても?」
「どうぞ」
ミシェルは教会の入口を開けてくれた。中へ入ると、簡易的な礼拝堂があるだけで殺風景な教室みたいな部屋だった。
「不思議ね‥‥‥。礼拝堂にいると心が落ち着くわ。普段から教会へ来ているの?」
「いえ、私は‥‥‥。任務がありますから。私も、ここへ来ると懐かしくて心が落ち着きます」
「懐かしい?」
「ええ。私は戦争で両親を亡くしまして、戦争孤児なんです。だから、町の教会で育ちました‥‥‥。教会は、私の心の拠り所なのかもしれません」
「‥‥‥そう」
「あの、アイリス様。私は教会の院長から聞かされていることがあります。事件の参考になるか分かりませんが‥‥‥」
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