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影武者
「聞かされていること?」
「はい。修道院の院長に代々語り継がれているらしいのですが‥‥‥。もし戦争が始まったら教会もどうなるか分からないからと、院長から城に勤めている私に、話があったのかもしれません」
「‥‥‥」
「この教会には、秘密の通路があります。王族に代々伝わる『隠し通路』といいますか‥‥‥」
「よくある話ね」
「その内の1つが、この教会にあるのです」
「私が言うのも何なんだけど、王族の隠し通路を、他国の者にバラしてしまっても大丈夫なの?」
「この辺りにあった城の建物は全て消滅してしまいました。それに‥‥‥」
「それに?」
「国王は城と共に消えてしまいましたから‥‥‥」
「「え?」」
「ちょっと待って、ミシェル。国王って、さっき私達が挨拶した人よね?!」
「ここだけの話にして欲しいのですが、あれは『影武者』です」
「か、影武者?! じゃあ、そっくりさんってこと?」
「はい。国王の親類縁者は政権争いで、全てお亡くなりになりまして‥‥‥。彼は、似ているからというだけで選ばれた、この国の『農民』です」
「「‥‥‥」」
あまりの話に私もオーベル様も一瞬、言葉を失ってしまった。
「あの横柄な態度は、演技だったの?」
「はい。彼なりに、人物像を聞いて必死に似せようとしているみたいです」
「何というか‥‥‥。他所の者が言うのもなんですが、トラスト国は大丈夫なのでしょうか?」
「‥‥‥ファーゴ王子が見つからなければ、王家は滅亡するでしょう。だから、ファーゴ王子を見つけることが急務だったのです。例え、どんな手を使ってでも、見つけださなければなりません」
「アイリス様、ファーゴ王子を探しましょう。それが、私たちの使命だったはずです」
目を白黒させていた私に、オーベル様はそっと話しかけた。
「そ、そうね。ミシェル、隠し通路はどこにあるのかしら?」
「ご案内致します」
私達は教会の奥の部屋へ案内されたのだった。
*****
奥の部屋の机の下に隠されていたボタンを押すと、レンガ造りの壁が動いて井戸が現れ、ミシェルは私に向けて手を差し伸べた。
「行ってみましょう。誘拐犯が修道女なら、この逃げ道を使用した可能性も捨てきれません。アイリス様なら、何かお気づきになられるかもしれませんし‥‥‥」
「それもそうね。秘密の地下通路へ行ってみましょう」
私が笑いながらオーベル様を見ると、何故か呆れた顔をされてしまったのだった。
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