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アーリヤ国のイル王
アーリヤ国の国王は『賢王』と呼ばれ、一筋縄ではいかない相手と言われている‥‥‥。アーリヤ国との外交を任されているエリオット様は、いつも大変そうだった。
エリオット様のことを思い出しながらも、高度な氷魔術を使うイル王に対して戦慄を覚え、腕が自然と下がり無意識にブレスレットに手を当ててしまう。
「アイリス様、いけません」
身体が自然と強張っていた私は、ハッとして顔を上げた。すぐ近くに心配そうに見つめるオーベル様の顔があった。
「ごめんなさい。勝手に警戒してしまったわ。誘拐犯の足取りを追っていたものだから‥‥‥。イル王は何故こんなところへ?」
警戒を解くと、私はイル王に尋ねた。
「私はアイリス嬢が、ここにいることの方が驚きだが‥‥‥。アーリヤ国の難民がいると聞いて、様子を見に来たのだ」
「おひとりで──ですか? カルム国へ書簡を送ったのはついさっきですのに、ずいぶんと早い到着なのですね」
アーリヤ国へは、リン王女宛にトラスト国内にアーリヤ国の難民がいることを、オーベル様の魔術を使って手紙を送っていた‥‥‥。それにしても、今ここにいるのは、いくらなんでも早すぎだろう。
「斥候を近くに忍ばせていてな‥‥‥。転移魔術を使った」
「そうですか」
「アイリス嬢は、何故ここに?」
私はファーゴ王子が誘拐された経緯や、トラスト国の要請で『ファーゴ王子誘拐事件解決』のために来ていることを、イル王へ話して聞かせた。
「自分を誘拐した王子を助けるのか? 随分と自分を苦しめた相手に寛容なんだな」
「カルム国の為です。戦争にならない為に、公爵令嬢として最善を尽くしたいのです」
「綺麗事を‥‥‥。トラスト国は何をしてくれた? アーリヤ国の民を騙して誘導し、捕え‥‥‥。挙句の果てには、奴隷商に売り渡そうとしていたのだぞ?」
「それは‥‥‥」
なんとも言えないと思った。トラスト国王と王子は行方不明だし、奴隷制度の残るアーリヤ国の人間にそんな風に言われても、どんな反応をしていいのか、困ってしまったのだ。
「先の戦の前に、我が国の魔術師を殲滅したのが、トラスト国の人間だという証拠も掴んでいる‥‥‥。これ以上、何かあれば宣戦布告を考えねばなるまい」
国王と王子不在で、戦争するのかな? と思っていた時、イル王は思わぬ言葉を言った。
「この国の城の一部は、ホノル砂漠の、ど真ん中にあったぞ」
「え?」
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