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禁忌魔術
「魔術師協会で禁止されている『大転移魔法』だろう。この魔法を扱えるのは、私ぐらいだと思っていたが‥‥‥」
「城の中にいた人間は、無事なのですか?」
「さあな。半分しかない城が半壊していたから、あまり期待はしない方がいいと思うぞ」
ミシェルを見ると、彼は青ざめた顔をしていた。
「早急に軍を差し向けなくては‥‥‥」
「そちらは、トラスト国の兵士か?」
「彼は私達に協力してくれただけです。行かせてあげてください」
「それは、構わないが‥‥‥。今、兵を差し向ければ王都は手薄になるぞ? あまりいい判断とは思えないが‥‥‥」
ミシェルは、「失礼します」と一言だけ言うと、慌てて駆けていったのだった。
「それで、アイリス嬢は誘拐犯を追っているんだったか? 教会は、もぬけの殻だったぞ」
「もぬけの殻?」
「ああ。誰もいないみたいだった‥‥‥。来い!! リョクリュウ!!」
イル王が空へ向かって叫ぶと、何処からか鷹が現れ、イル王の肩へ止まった。
「アイリス様、あれはイル王が使役している『リョクリュウ』という、鷹の姿をした魔物です」
オーベル様が近くに来て説明してくれる。
「魔物?! 鷹なのに龍なの?」
私の呟きが聞こえたのか、イル王は顔を顰めながら言った。
「ネーミングセンスへの文句は、リンに言ってくれ。あいつが付けたんだ‥‥‥。現状の確認も出来たし、私は所用があるので、ここで失礼する。またな、アイリス嬢」
イル王は近くにあった転移陣の上に乗ると、こちらを振り返って言った。
「尋ね人は、案外近くにいるものなのかもしれないな」
「えっ?! それはどういう‥‥‥」
私が言葉を返す前に、イル王と鷹は目の前から消え、同時に転移陣も消えていった。
「オーベル様、現状は確認したと言っていましたが、どういうことでしょう? イル王は、ここへ来たばかりだと思っていたのですが‥‥‥」
「おそらく『リョクリュウ』を使ったのでしょう。鷹の眼があれば、遠くからでも城の中を確認することができますし‥‥‥。それ以外にも、何かしらの魔術を使ったのかもしれません」
「何だか慌ただしかったわね」
「ええ。アーリヤ国内は、粛正があるとかで、今は大変みたいですよ」
「‥‥‥そう。国内が大変な時なら、すぐに戦争なんて事にはならないかしら? それにしても、あんな言い方をしなくても良さそうなものなのに‥‥‥」
「相手を牽制することも、外交手段の1つなのかもしれませんね」
「訳がわからないわ」
「そうですね」
オーベル様は苦笑すると、私を教会へエスコートしてくれたのだった。
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