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トラスト国内の教会
教会の裏庭から正面の入り口に回って、扉についているノッカーで何度か扉をノックした。
「‥‥‥返事はないようですね」
「イル王は、『もぬけの殻』と言っていました。鍵も掛かってないようですし、入ってみますか?」
「そうね」
ドアを開けて中に入ると、散らかった部屋に静けさが広がっていて、不気味だった。本当に誰もいないようだ。
「‥‥‥失礼します」
建物自体が古いのか、歩く度に床がミシミシと鳴っている。
玄関ホールを抜けると、右側に大きな食堂、左側にキッチンや事務室があるのが見えた。
「イル王の言う通り、もぬけの殻ですね‥‥‥。微かにですが、闇の魔術の気配もします。ここに誘拐犯がいたのかもしれません」
廊下を歩いていると、奥の部屋から緑の光の残骸が微かに光っているのが見えた。
「オーベル様、この先の部屋から緑の光が漏れ出ているみたいです。誰かいるのかもしれません」
廊下の先、突き当り左の部屋に向かってゆっくりと歩いていき、扉の前へ立つと警戒しながらも2人でドアを開けた。
「「‥‥‥」」
「誰もいませんね」
「‥‥‥ここは、司教部屋かしら?」
「どうでしょう」
右奥にある両開きのキャビネットから、光が見えたのでキャビネットに近づき、そっと開いた。
キャビネットの中には、アンティークもののオルゴールが置いてあるだけで、他には何もなかった。オーベル様は、狐につままれた様な顔をしている。
「変ですね」
そう言って、オーベル様は小箱を手に取り、蓋を開けようとしていた。けれど、オルゴール自体に魔術が掛かっているのか、蓋が開くことはなかった。
緑の光が微かに舞い、空中で消える。
「オーベル様、微かですが緑の光の残骸のようなものが見えました‥‥‥。魔術でしょうか?」
「分かりません‥‥‥。闇の魔術の気配は感じられませんでしたが」
他に手がかりのようなものは見つからず、私達はオルゴールを片手に、もと来た道を戻ったのだった。
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