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カルム国への帰還
私達が城へ戻ると、城内は騒然としていた。ホノル砂漠に向かう騎士隊が隊列を組んで並んでいるかと思いきや、情報が錯走しているらしく、城内はごった返していた。
「いや、ご苦労、ご苦労。アイリス殿。王子探しはもう結構。手間を取らせて、すまないね」
「え?」
「消えた城の半分が見つかったのだ。ファーゴ王子も、そこにいるに違いない」
「ちょっと待ってください。ファーゴ王子は、誘拐されたのですよね?」
「左様‥‥‥。だが、国を出た形跡はない。消えた城にいると考えるのが妥当ではないかね?」
私は偽物の国王の態度に辟易していた。大方、国王を救うほうが先決という話になったのだろう。
「じゃあ、何で誘拐犯を捕まえるなんて話になったんです?」
「それは‥‥‥。すまない。わしにも色々言えない事情があるのじゃ」
(うーん、そんな風に言われても、どうしたものか‥‥‥)
「これは、謝罪と謝礼を兼ねたせめてもの気持ちじゃ。納めてくれ」
侍従によって目の前に持ってこられた台には、金貨が山のように積んであった。どうにかして、早く帰って欲しい雰囲気が分かりやすすぎる気がする‥‥‥。
「アイリス様、ファーゴ王子は見つかりませんでしたが、ホノル砂漠という手掛かりは見つかったということで‥‥‥。帰りましょうか」
「そうね」
私達はオルゴールのことを言いだせないまま、カルム国への帰路に着いたのだった。
*****
馬車3台に、宝石や金貨をパンパンに詰め込んで、カルム国の城へ辿り着いたのは、それから3日後の事だった。
「おかえり、アイリス」
私室に戻った私は、執務室にいるエリオット様のところへ挨拶に行った。
「ただいま戻りました」
私がそう言うと、エリオット様は他の人達がいるのにも構わず、抱きしめてきた。
「え、エリオット様?!」
「‥‥‥」
しばらくの間そうしていたが、身体を離すとエリオット様は、私の顔を覗き込むように見つめていた。緑色の瞳が心配そうに揺れている。
「アイリス、怪我はない? また無茶な事はしてないよね?」
「大丈夫ですわ。そう言えば、トラスト国でイル王に偶然お会いしましたわ」
「えっ、イル王と会った?!」
「ええ。私もびっくりしました。転移魔術でアーリヤ国から来たみたいなのですが、教会へ行ったら、イル王がいらっしゃって‥‥‥」
「イル王は、何か言っていたかい?」
「いえ、特には何も‥‥‥。そう言えば、『城の半分が見つかった』と言っていましたわ」
「ごめん、アイリス‥‥‥。順を追って話してくれる?」
私はトラスト国に着いてからイル王に会い、帰還するまでの話を、かいつまんでエリオット様に話して聞かせた。
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