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不意打ち
次の日。
サロンでオーベル様を待っていた私は、本日20杯目となる『オレンジティー』を飲んでいた。
「オーベル様、遅いわね・・・」
オーベル様は、夕方になっても帰ってこなかった・・・外が薄暗くなってから、伝令の騎士がやって来た。
「オーベル様より、伝言です。魔術師協会との話し合いが長引きそうなため、「泊まる予定の宿まで、先に馬車で向かってください」とのことでした」
トラスト国との国境付近には馬車で3日ほどかかるため、途中の宿には先に予約を取っていた。
「オーベル様が・・・本当にそう言ったの?」
「私も本人から直接聞いたわけではないので、何とも・・・」
「どういうこと?」
「手紙です。いつもの配達員が届けてくれました。ここに・・・オーベル様の直筆サインもあります」
私は騎士から手紙を受け取ると、手紙を眺めた。特に怪しいところは何もない。紙も魔術師協会のものが使われていた。
「特に不自然なところはないけれど・・・怪しいわね」
「私も、そう思います」
「アイリス様。今日お出掛けになるのは、おやめになさったほうが・・・エリオット様に相談してからにしてくださいませ」
サラにそう言われて、私も頷くより他なかった。
「そうね・・・そうしましょう」
そう言った瞬間、薄く開いていた窓から緑の光が入って来るのが見えた。
「なっ・・・」
部屋の中が、たちまち炎に包まれる。
「アイリス様!!」
「サラ、逃げて!!」
サラは入口付近に控えていたため、今ならまだ逃げることが可能だった。
「なりません!!アイリス様!!」
熱いと思っていたが、いつの間にか炎は消えていた。どうやら、幻影の魔術が使われていたようだ。
「アイリス様!!」
「え?」
炎に気を取られているうちに、いつの間にか誰かに担がれていた。
「ひゃっ!!」
突如として現れた騎士は、私を担いだまま窓から外へ飛び降りた・・・中庭にある芝生の上に着地すると、そのまま走り出す。
魔術を使おうと思ったが、ブレスレットをつけていないことに気がつく。最近は失くすといけないからと思って、ブレスレットに伸縮魔法をかけてもらい、指輪と同じサイズにしてチェーンを通し、首から下げていた。
城の近くに停めてあった馬車まで辿り着くと、馬車の中へ物を投げ入れる様に乱暴に入れられた。馬車は私が乗った瞬間に走り出す。
「あなたは・・・この城の騎士では、ありませんね」
いつの間にか、騎士は知らない男性の顔になっていた。
「失礼」
男は布切れをポケットから取り出すと、私の鼻に押し当てた。
「ふがっ・・・」
思い切り吸い込んでしまったそれは、睡眠薬だったらしく、眠気に逆らえなくなった私は、そのまま意識を手放したのだった。
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