覚悟

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覚悟

「私達には、アイリス様が神に代わって()()を与えたように見えました。実際には違ったかもしれませんが、トラスト国王を亡きものにする以外に、使命が出来たと‥‥‥。そう思いました」 「それでファーゴ王子に捕らえられた時、助けに来てくれるのが早かったのかしら?」 「‥‥‥」  私は、どう言ったらいいのか分からないまま何とか言葉をひねり出した。目の前に殺人を犯そうとしている人を見て、さすがに放おっておけないと思った。 「ねえ‥‥‥。アリエル? こんな人、殺す価値なんてあるかしら?」 「アイリス様は、殺す価値もないと仰るのでしょうか? でも、このまま放置という訳にもいかないでしょう?」  国王は生きているか分からないし、ファーゴ王子が死んでしまったら、トラスト国は滅亡してしまうだろう。 「俺は‥‥‥。死ぬのか? 消えてしまうのか?」  ファーゴ王子は、ひとり呟いていた。気丈に振る舞ってはいるが、身体は震えていた。 「貴方みたいな人でも、死ぬのは怖いのね。安心なさい。ひとおもいに逝かせてあげる」  私は何も出来ずに、ファーゴ王子の目の前に飛び出した。  アリエルの左目が虹色に光り、緑の光が弾けて私に向かってきたが、消えてなくなっていた。 「アイリス様?! 何故です? 何故その者の肩をもつのです? トラスト国の王族のせいで、私は‥‥‥。私の母は、ロクな人生を送る事が出来なかった」 「それでもよ、アリエル。殺していい理由なんて、何処にもないの」 「でもトラスト国を消せば、アイリス様に新しい国を差し上げられます」 「私がそれを望んでいるとでも?」 「思いません。ですが、そこにいるのは生きている価値のない人間です」 「アリエル。それは、あなたが決めることではないハズよ」 「分かっています。頭では分かっているんです。でも、どうしても‥‥‥。どうしても許せない!!」  私とアリエルが言い争っていると、目の前にファーゴ王子が立ちはだかった。 「ふん、いい度胸ね。自ら出て来るなんて」 「俺は‥‥‥。正直に言うと、王族になんてなりたくなかった。小さい頃から、遊びたい時には遊べず、やりたいことは何一つ出来なかった。妻たちの存在が唯一の救いだったが、それも何だか間違っていたみたいだ‥‥‥。もう、この世に未練はない。正直、死ぬのは怖いが痛くはしないのだろう? これも、運命だと思って諦めるしかないのだろうな‥‥‥」 「ファーゴ王子、駄目よ。あなたが死んだって、何一つ解決しない!!」 「もう、いいさ‥‥‥。どうせ父上は、もうこの世には、いないのだろう?」 「よく分かったわね。私がここへ来る前に城に立ち寄って、城の一部と共に消滅させたわ」 「今の俺に国王は無理だ‥‥‥。器じゃない。トラスト国に戻っても、貴族に暗殺されるだけだろう。なら結局は同じじゃないか」 「アリエル、半分は血の繋がった姉弟なのよ? 考え直して‥‥‥」 「アイツの血が半分流れてるなんて、考えるだけでもおぞましいわ!!」  アリエルの左目から再び魔術が流れ出るのが見えた。もう止められない‥‥‥。そう思った瞬間、全てがスローモーションの様に見えていた。 「消滅せよ、特殊消滅魔法(ディストルシア)!!」 「特殊結界防御魔法(エノーマシールド)!!」  アリエルが目を見開くと、巨大な緑の光の渦が目の前に現われた。だがそれは、ファーゴ王子に向かって放たれる直前に、オーベル様の声が聞こえて、アリエルへ跳ね返っていた。 「なぜっ‥‥‥」  跳ね返った緑の光を浴びたアリエルは、跡形もなく消滅してしまっていた。 「アリエル? 消えてしまったの?」 「おれは‥‥‥。生きてるのか?」  ファーゴ王子は、倒れるようにその場に崩れ落ちた。 「アイリス!!」 「アイリス様!!」  エリオット様とオーベル様がドアを蹴破り入ってくる‥‥‥。緑の光が消えた後、残った光の中には、微かに黒い色も混じっていた。 「呪いの光?! アリエルは、もしかして操られていたの?! それじゃ‥‥‥」  振り返ると、そこにはアネッサが転移陣の上に立っていた。 「待って‥‥‥」  エリオット様とオーベル様が私の側に駆けて来るタイミングで、アネッサは転移陣もろとも消え去ったのだった。 「アイリス‥‥‥。無事で良かった」  エリオット様は、私をそっと抱きしめるとファーゴ王子を睨みつけていた。 「‥‥‥」 「アネッサ‥‥‥。あいつが黒幕だったのか?」  ファーゴ王子はアリエルの居なくなった空間を見て、ひとり呟いていた。
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