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初対面
私達は北塔の拷問部屋を出て、城の応接室へ移動した。ファーゴ王子へシャツとズボンを貸し出し、別室で着替えてもらう。
「えっと‥‥‥」
テーブルを挟み、初対面で睨み合って座っている二人に、どう接したらいいのか私は困り果てていた。
「トラスト国、王太子のファーゴ・トラストだ。よろしく」
「‥‥‥カルム国、王太子のエリオット・カルムだ。こちこそ、よろしく」
挨拶だけを聞けば、普通の挨拶だったが、ファーゴ王子はソファに深く腰掛け足を組んでいた‥‥‥。エリオット様のこめかみがピクピクと動いているのが見える。
「まずは、礼を言う。危ないところを助けてくれたこと、感謝する」
そう言うと、ファーゴ王子は深々と頭を下げた。
「「「‥‥‥」」」
その態度に驚いた私達は、一瞬固まってしまう。
「アイリス様を助けるために張った結界でしたが、図らずも貴方様をお助けする事が出来て、光栄に思っております」
いち早く立ち直ったオーベル様が、何とか返答していた。ファーゴ王子も流石にトラスト国の次期国王として、最低限のマナーはあるみたいだった。
「リーリャは操られていたみたいなの。緑の光の中に黒の塊があるのを見つけたわ。全て消えてしまったけれど‥‥‥」
「服従の魔術でしょうか?」
「消えてしまった後では分からないけど、そんな感じだったわ‥‥‥。でも操られてたというより、洗脳されていたみたいに見えたのよね」
実際に見た王妃様への服従魔術より、より精神支配されていたように私は感じていた。
「エリオット様とオーベル様は、2日間どうしていたのですか? 私は、窓から北塔が燃えているのが見えたので、驚いて来てみたんです。そしたら、リーリャ‥‥‥。じゃなくてアリエル伯爵令嬢に捕まってしまったのですが‥‥‥」
エリオット様とオーベル様に、リーリャがカルム国の暗部にいた伯爵令嬢だったことを話して聞かせた。
「また、幻影の魔術ですか‥‥‥」
オーベル様がつぶやくと、隣に座っているエリオット様がこちらを見て説明してくれた。
「アイリス、私達はずっと北塔に辿り着けなかったのだよ。おそらくは幻影の魔術が原因だったのではないかと思う。けれど、識る力が影響したのか、ブレスレットを通してアイリスの居場所を位置検知した途端、幻影魔術が消えて北塔まで辿り着く事が出来たんだ」
「では、ずっと中庭を迷われていたのですか?」
「いや、城へは戻ることは出来たから何度か戻って来てはいたのだけれど‥‥‥」
エリオット様は、私が言いたいことに気がついたのか、視線を逸らしていた。
「無事なら無事と知らせてくださいませ!! 心配しましたのよ」
「‥‥‥すまない。事情を知ってしまったら、アイリスは『識る力』を使うと、言い出しかねないと思ってね‥‥‥。言い訳になるけど、危険に晒したくは無かったのだよ」
「どれだけ心配したと思ってるのです!!」
私が怒ると、エリオット様は驚いたのか目を瞠り、私を優しく抱きしめた。
「‥‥‥すまない」
オーベル様が咳ばらいをして、再び話し始めた。
「‥‥‥それにしても、このままでは証拠不十分で、アリエルが行った犯罪ということになってしまいます。伯爵家も、ただでは済まないでしょう」
「そのことで提案なんだが、俺の誘拐は『狂言』だったということにしないか? それで、アイツの想いが少しでも晴らされるのならば‥‥‥。俺は、それでも構わない」
「ファーゴ王子?!」
「どうしたのです?」
私とオーベル様が驚いていると、ファーゴ王子は苦笑しながら答えていた。
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