魔眼の消滅

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魔眼の消滅

「腹違いとは言え、姉だったかもしれない人が操られた上に冤罪だったなんて悲しすぎるだろ‥‥‥。本当なら、俺が消えるはずだったんだ」 「でもアリエルは‥‥‥。あの口ぶりでは、貴方を少なからず憎んでいたのだと思うのだけど?」 「俺がアリエルの立場なら、同じことをしたかもしれないと思ったしな」 「「「‥‥‥」」」 「噂に聞くファーゴ王子とは、少し人物像が違うように思われるのですが??」  オーベル様の疑問は、もっともだった。だが、目の前にいるのは間違いなくファーゴ王子だ。 「さぁ? 本当に死にそうになって、人が変わったとしか思えないわ。もしくは、熱でもあるとか‥‥‥」 「本人を目の前に、失礼な奴らだな」  私がファーゴ王子を覗き込むように見ていると、エリオット様に後ろから腰を掴まれ、抱き寄せられた。 「アイリス、危ないよ。いくら効かないからって無闇に魔眼に近づいては駄目だ」 「エリオット様‥‥‥。ファーゴ王子の魔眼はアリエルの消滅の魔眼によって、消滅しました」 「え? それじゃあ、右目に巻いてある包帯は?」 「アリエルが魔眼を消滅させたことを隠すために、ファーゴ王子に巻いていた包帯です。手術だと偽っていたみたいでしたので‥‥‥」 「消滅の魔眼ですね? アリエルは自分自身が使った魔眼の力によって、結界から跳ね返った魔術で消滅したということですか? それでは、魔眼は‥‥‥」 「ありません」 「エリオット様‥‥‥。魔眼の力は魔術具を使用しても、検知できません。おそらく完全に消滅したかと思われます」  そう言うと、オーベル様は手に持っていた小型の計測器みたいな物をエリオット様へ見せていた。 「オーベル様、治癒魔法で治りませんか?」  私が聞くと、オーベル様は渋い顔をしながら答えた。 「可能ですが、また魔眼の力が戻ると思います‥‥‥。それでも構いませんか?」 「俺は‥‥‥。このままでも構わない。魔眼の力がなくても1人でやっていく‥‥‥。いや、1人でやっていきたいんだ」 「ファーゴ王子、そんなことを言って‥‥‥。トラスト国はどうするのです?」 「父上がいなければ、もたないだろう‥‥‥。もともと父の代で、政権は崩壊しかけていたんだ。建て直すのは容易(たやす)くない。今のうちに、何処かの国の属国になったほうがマシだ」  ファーゴ王子の横顔からは、かなりの疲労が感じられた。 「今すぐ答えを出さずとも良いだろう。ファーゴ王子は、客人としてもてなす。トラスト国からはファーゴ王子を見つけた場合、保護を求められていたはずだ。急ぎ使者を立て、無事の知らせを送らせよう‥‥‥。ファーゴ王子、今日はゆるりと休まれよ」 「‥‥‥エリオット王太子、感謝致します」  トラスト国の挨拶なのか、ファーゴ王子がお辞儀のような挨拶をすると、その日はそれでお開きになったのだった。
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