37人が本棚に入れています
本棚に追加
「惚れ薬⁉︎」
「言っておくが、これは異性にしか使えぬ。お主が私を籠絡しようとしても無駄じゃからの?」
ヒミコはしっかりと釘を刺し、アズに小瓶を渡した。
「これを飲ませ、効果があったら私に石を預ける。良いな?」
「それは……他の三人の同意を得たら、です」
「まあ良い。吉報を待っておる。私は明日の夕方、ここを発つのでの。それまでに心を決めるんじゃぞ」
ヒミコは大きなお尻を振りながら去っていった。
そして。
部屋に戻ってきたアズは、手に持った小瓶と睨めっこをしていた。
小瓶の栓となっているコルクの内側から甘い果実のような匂いがしている。匂いだけならとても美味しそうだが。
セイシロウに飲ませるべきか否か。
あのヒミコが本物なのかを確かめるためだけに、セイシロウにこんな怪しい薬を飲ませても大丈夫なのか。
そんな表向きの事情よりもアズの心を悩ませているのは、
「こんなものでもしセイシロウが私に惚れても……嬉しくない!」
ということである。
惚れさせるなら正々堂々と自分の魅力で、と思うのである。しかし、自分にそこまでの魅力があるのかどうか自信はない。
こんな薬に頼らなければいけないのかと思うと屈辱でもある。
悶々としていると、ドアがノックされた。
「おーい、アズ! 夕飯食べに行こうぜ!」
「セ、セイシロウ?」
アズはびっくりして小瓶を落としてしまった。意外と頑丈な器でできていた小瓶は床に落ちても割れず、コロコロと転がってドアにぶつかった。それが開けてもいい合図だと思ったのか、セイシロウが外からドアを開けた。
「何だこれ」
セイシロウが小瓶を拾う。
「あっ、そ、それは……! 何でもないのっ」
「なんか美味そうな匂いがするな」
セイシロウがクンクンと鼻を動かした。
(これは、チャンスなのでは⁉︎)
アズの心臓が激しい音を奏でて暴れ出した。
最初のコメントを投稿しよう!