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「なんか腹減ったなあ。ちょっと一口貰っていいか?」
「えっ⁉︎」
セイシロウが蓋を開けようとしたので、アズはドキッとした。
「ちょっと待って、実はそれ……」
「ん?」
本当のことを言って止めさせるべきだ。
でも、何故そもそも惚れ薬なんてものがあるのか、説明しろと言われたら?
なんだかんだで、セイシロウのことが好きだとバレてしまうかもしれない。
一瞬のうちにめちゃくちゃな論理がアズの中に組み立てられた。
その論理に勝手に追い詰められた結果、アズはセイシロウから無理やり小瓶を取り戻し、服毒自殺をするかのように中身を飲み干した。
自分で自分の意思を持って飲む。
そうするしか、この場を切り抜ける術はないと判断したのだ。
「おい、一人で全部飲むなんてずるいだろ」
残念がるセイシロウ。
アズは自分の心音を確認する。特に異常はない。ただただ甘ったるい果実のシロップを飲んだだけという感想だ。本当に魔法薬だったのか怪しいと思えるほどに真っ当な味だった。
「良かった……」
「何なんだよ」
何の変化もないことにホッとして脱力したその時だった。
「アズキ、口元に赤いシロップついてるぞ」
セイシロウがアズの唇の端についた惚れ薬を指で掬って、アズの唇の隙間にちょっと押し込んだ。
「んっ⁉︎」
その一雫がアズの舌に吸収され、唾液と共に喉を通過した瞬間、アズの体を形成する細胞のひとつひとつが赤く変色し、色めき立ったような感覚がした。
「あっ、アズー! お風呂入った? 僕たち食事してこようと思ってるけど、まだなら待ってるよ?」
その時、廊下の向こうからコージーが無邪気な顔をして現れた。
すると、コージーの方を振り向きそうになったセイシロウの頬が、突然ガシッと掴まれた。
「あ、アズキ?」
驚くセイシロウの正面で、無理やり彼の顔を自分の方に向けさせたアズがトロンとした瞳で呟いた。
「私だけ見ていて……?」
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