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その瞬間、アズは驚いていた。
(今、私……何を言ったの?)
頭の中にはいつもの自分が小さくなって閉じ込められていた。その自分が外側の自分に違和感を唱えている。
セイシロウも不思議そうに「ん?」と目を丸くしながらアズを見下ろしていた。
「ごめんなさい、何でもないの」
「そ、そうか」
「どうしたの? 二人とも」
コージーが近づいてくる。
「何でもねえ」
セイシロウがコージーの方に体ごと向く。するとまたアズの体は勝手にセイシロウの腕に自分の腕を絡ませていた。
「私から離れちゃイヤ♡」
声にならない悲鳴がアズの頭の中に響き渡った。
「どうした、アズ? 何か変だぞ」
「う、うん! 変なの! 助けて、セイシロウ! 私の体がおかしくなっちゃったの! だから……ずっとそばにいてね。離れたら死んじゃうからっ」
(って、違ーう!)
頭の中で否定するけれど、体はセイシロウの厚い胸に抱きつこうとしてしまう。
たった一滴でこれほど操られてしまうとは、ヒミコの惚れ薬の効果は凄まじいと言わざるを得ない。本当の意識は残っているというところがまた恐ろしい。自分の意に反した行為をしていると自覚しながらも止められない。
こうなれば、相手に異常を察してもらって暴走を食い止めてもらうしかないのだが、
「離れたら死ぬ⁉︎ それは大変だ! 分かった。絶対に離れないから安心しろ!」
いかんせんセイシロウは素直すぎた。
アズの言葉を正面から受け止め、彼女を抱きしめた。
(あっ……これはこれで死ぬ)
幸せで昇天しそうなアズとド真面目な顔をして彼女を抱きしめているセイシロウを見て、コージーは本当に不思議そうに「何やってるの?」と尋ねた。
「どうしたどうした」
その後ろからニヤニヤした表情のジオンも現れる。
もうダメだ、とアズは観念した。
「実は……」
惚れ薬を飲まされたの!!
と正直にアズが叫ぼうとしたその時、外側のアズがセイシロウを見つめて言った。
「セイシロウのことが、大好きなの♡」
(って、ちっがーーーーう!!!)
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