ヒミコの野望

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 ◇ 「じゃあヒミコさんの目的は精霊石なんだね?」 「そうなの。自分が賢者であることの証に、惚れ薬を試せって言って私に……だからこれは不可抗力なのよ!」  夕食の席にて、セイシロウの腕に自分の腕を絡めながら、アズは力説した。  目の前のテーブルには今夜の食事、スノーバレルドリアが温かそうな湯気を立ち上らせている。  スノーベアの肉やたっぷりの野菜の上にホワイトソースがかかった美味しそうな料理だ。  「もうっ、せっかくの料理が……これじゃ食べづらくて仕方ないわねっ」 「アズキが俺の腕に絡まってくるからだろ?」 「だからこれは惚れ薬の効果だから仕方ないって言ってるじゃないの!」  アズはギロッとセイシロウを睨んだが、すぐにヘナッと頬が緩んでしまう。 「仕方ないから……セイシロウが食べさせて♡あーんって」 「これは重症だね」  コージーが笑いながらドリアを口に運ぶ。 「でも時間が経てば元通りになるみたいだから、それまで我慢するしかないね」 「そんなあ……」  ガッカリしたアズの鼻先に、ドリアをすくったスプーンが近づいてきた。 「ほら、あーん」  バカ真面目なセイシロウがアズに食事をさせてくれるようだ。   (嫌よ、こんなバカップルみたいな真似!)  と思いつつも、アズの口は勝手に開いてセイシロウのスプーンを咥えてしまう。 「美味しいっ」 「良かったな」  アズが素直に喜ぶと、セイシロウも素直に喜ぶ。 「なんか、お似合いだね」 「セイシロウはアズのお世話係に決まりだな。明日まで面倒見てやれよ」  コージーとジオンはニヤついた表情で二人を見た。 「明日まで⁉︎ そんなの嫌よ、ずっと一緒じゃなきゃ!」 (って、ちがーう!!)  アズは頬に溜まった熱を感じながらそっとセイシロウを見た。  セイシロウはそんなアズの視線を受けて、ちょっと照れたように横を向いた。 「わがまま言うなよ、アズキ。ずっと一緒なんて……無理に決まってんだろ」  セイシロウの言うことはもっともだ。  しかし、アズの胸には針で刺されたような痛みが残った。  ずっと一緒なんて無理だ。  セイシロウからそんな言葉は、聞きたくなかった。    
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